個人事業主の破産と事業の継続


個人事業主が破産申立てをした後、これまでの事業を継続することはできるのでしょうか?

同時廃止事件の場合、事業の継続は問題ない

 個人事業主が破産申立てをし、同時廃止事件として処理された場合は、破産手続開始決定後に事業を継続することは特に問題がありません。ただし、損害保険代理店など資格制限に該当する場合は、その事業を営むことはできません(破産と資格制限も参照)。

 ところで、大阪地裁の場合、個人事業主の破産事件は、原則、管財事件として処理されます。したがって、同時廃止として処理されるのは、例外的な場合に限られます。

管財事件で開始決定後、事業を継続する場合の問題点

 破産手続開始決定後に事業を継続する場合としては、①破産管財人が事業を継続する場合と②破産者である個人事業主が事業を継続する場合があります。

 ②破産者である個人事業主が、破産手続開始決定後に事業を継続する場合、次のような問題があります。

①事業用資産は破産財団に該当しないのか?

 そもそも、破産者が自由財産(破産法34条3項)を用いて事業を行うことは、資格制限以外に法律上の制約はありません(自由財産の拡張も参照)。ただし、本来的自由財産の中の差押禁止財産の範囲が問題になることがあります。

 事業用資産が差押禁止財産であるためには、業務に欠くことができない動産であることが必要です(民事執行法131条)。その判断は、業務の内容・規模、その財産を使用できないことによる影響などにより決定されます。破産手続開始決定直後に、破産管財人がこのような判断をすることができない可能性があります。

②事業用資産の評価

 事業用資産が破産財団に属する場合は、破産者に管理処分権はないので使用することはできません(破産法34条1項)。そのため、破産者から事業用資産を買い取りたいと要望が出されることがあります。

 評価が適正であれば、破産者に売却することは問題ありません。しかし、破産者よりも高額で買い取るという人がいる場合は、破産管財人は破産者に売却するわけにはいきません。そのため、破産手続開始決定後、すぐに事業用資産を破産者に引き渡すことはできません。

③営業権の評価

 個人事業主が破産手続開始決定後に事業を継続する場合は、その営業権は破産財団になります。そのため、破産者は破産財団から営業権を買い取る必要があります。

 営業権をどのように評価するのか?という問題や、破産者よりも高い評価をする人が現れる可能性もあり、破産手続開始決定後、すぐに営業権を破産者に売却するというわけにはいきません。

④契約関係の処理

 事業用賃貸物件がある場合、破産管財人は賃貸借契約を解除するか、継続するかを選択します(破産法53条1項,破産手続における双方未履行の双務契約参照)。事業継続を希望する破産者としては、賃貸借契約の存続を希望するでしょう。しかし、賃料の支払の問題があります。

 破産手続開始決定後の賃料は財団債権になります(破産法148条1項7号)。財団債権は他の債権よりも破産手続きにおいて優先します(破産法151条)。そのため、破産管財人は財団債権の発生を回避するため、通常は、賃貸借契約の解除を選択することになります。

⑤売掛金の自由財産拡張は認められない

 事業継続を希望する破産者からは、売掛金の自由財産拡張の申立て(破産法34条4項)がなされることがあります。大阪地裁では、売掛金の自由財産拡張は、原則的に認めていません(破産手続における自由財産の拡張参照)。

 したがって、事業を継続が認められても破産手続開始決定時の売掛金は、破産管財人が回収します。

⑥破産手続きの長期化

 ①~⑤のような問題があるので、事業を継続する希望がある場合、破産手続きが長期化することが予想されます。特に、破産者が事業継続のために、営業権などの評価額を分割で支払うことによる破産手続きの遅延が正当化できるか?ということを検討する必要があります。

個人再生を検討

 個人事業主が破産手続開始決定後に事業を継続するためには、上記のような問題をクリアする必要があり、事業継続が認められない可能性もあります。

 そもそも、個人事業主が破産申立てを行うのは、事業の不振が原因であることがほとんどです。事業を継続することで再び債務を抱えるのではないか?という懸念もあります。

 個人再生手続きであれば、事業を継続することができます。どうしても事業を継続したいという希望がある場合は、小規模個人再生手続きを検討することも必要です。


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