個人事業者・フリーランスの債務整理
個人事業者・フリーランスの方も債務整理を行うことができます。
しかしながら、個人事業者・フリーランスの方の場合、会社員等の給与所得者や主婦(夫)の方とは、異なる視点で検討する債務整理を検討する必要があります。
また、法人の債務整理とも異なる視点で債務整理を検討する必要があります。
以下、いくつかポイントを整理します。
資産・負債・収入の把握が困難
個人事業者・フリーランスの方は、すべての法律関係・契約関係が自らに帰属します。そのため、事業用資産と事業外資産、事業用負債と事業外負債を明確にするのが困難です。
たとえば、クレジットカードで事業に関する経費の支払いと私的な支払いを行っていたり、自宅の一部を事業のために使用し、そのための費用を経費として支出したり、私的な支出と混同が生じ、事業用資産と事業外資産を分けて管理しにくい状況があります。
さらに、自分の所得が帳簿上の経費として支出されないため、実態として利益が出ているのかが、個人事業者自らが把握しにくい状況にあります。
債務を整理するだけでは不十分
会社員等の給与所得者の債務整理の場合、債務整理に至る原因は、給与の減少や浪費等様々ですが、収入と支出のバランスが崩れ、借入れが増大していって、支払いができないという状況です。収入と債務を分けて、現在の給与等の収入を前提に、債務の弁済が可能か?や債務整理後の収支改善を検討することができます。
個人事業者・フリーランスの場合、会社員等と同様、浪費等によって収支のバランスが崩れたのが債務整理に至る原因ということもあります。しかし、ほとんどは、事業の低迷から事業資金の借入、買掛金等の支払いができないという状況です。
個人事業者・フリーランスの場合、収入と債務は一体となっているので、債務整理をするに際し、収支改善を検討する必要があります。つまり、事業を継続するのであれば、事業が低迷している原因を除去して収益改善を図る必要があります。事業を廃止するのであれば、事業廃止後の収入をどう確保するのか?を検討する必要があります。
公租公課、労働債務の問題
会社が破産すると、法人格が消滅します。したがって、公租公課や労働債務の未払いがあっても、破産後は、支払義務者が存在しません。
個人事業者・フリーランスの場合、公租公課や労働債務は、非免責債権で免責されません。つまり、破産して免責許可決定がなされても、引続き、これらの支払義務を負ったままです。
したがって、個人事業者・フリーランスの方の経済的再生のためには、公課や労働債務の未払の有無が重要なポイントとなります。
事業を継続するか?廃業するか?
個人事業者・フリーランスの方の債務整理の一番のポイントは、事業を継続するか?廃業するか?です。
事業自体は問題なく、浪費等の私的な債務の増大によって、債務の支払いができなくなったような場合は、債務整理を行い、事業を継続するのに、大きな支障はないでしょう。
事業が低迷し、収益改善の見込みがないような場合は、債務整理を行い、事業を継続するのは、困難でしょう。
事業の継続性や譲渡の可能性を考慮し、将来の生活設計を踏まえ、譲渡を継続するか?廃止するか?を決定する必要があります。
個人事業者・フリーランスの方の債務整理手続の選択
以上のポイントの中から、事業を継続するか?廃業するか?の観点から個人事業者・フリーランスの債務整理の手続の選択肢を具体的に見てみましょう。
事業を継続しない場合
事業を継続しない場合の債務整理の手続としては、自己破産を選択することが多いです。
事業を継続する場合
事業を継続する場合の債務整理の手続としては、以下のものがあります。
自己破産
自己破産は、事業を継続しない場合に選択されることが多い手続です。しかし、破産自体は、事業の廃止を要件としていません。
取引先の維持、事業用資産の継続等が問題にならない場合、たとえば、一人親方やフリーランスの方は、破産申立てを行い、事業を継続するという選択肢もあります。
個人再生
個人再生手続は、裁判所を通じて行う法的整理の手続です。債務者は、財産の管理処分権を失わないので、引き続き事業を継続することが可能です。
ただし、対象債権者は、銀行や消費者金融等の金融機関だけではなく、仕入先等の取引先等も含めた全債権者です。そのため、取引先との取引の継続、信用維持の確保の問題が生じます。
任意整理
裁判所を通さずに行う私的整理の手続です。任意整理は、対象債権者を債務者が選択することができます。つまり、金融機関のみを対象債権者として、取引先等を対象外とすることができます。
ただし、任意整理では、債務を減額することは基本的にできません。また、最近は、長期間の分割支払での和解に応じない金融機関が増えています。
各種ガイドラインに基づく準則型私的整理
私的整理手続の内、一定の準則やルールに従って行う手続を準則型私的整理手続と言います。
自然災害ガイドライン、中小企業等ガイドラインといったガイドラインに基づく私的整理手続を利用できる場合があります。
準則型私的整理手続は、事業を継続できる、信用情報に登録されない、自宅不動産を残せる可能性があるなどメリットがあります。
しかし、対象債権者全ての同意がないと手続が成立しない、破産・個人再生と比べると予測可能性が低く手続が不安定、破産・個人再生と比べ弁護士費用が高いといったデメリットがあります。
債務整理手続の選択
債権者数、債権者の属性、債務総額、債務者の財産の内容、債務者の収入・支出の状況、今後の収入状況の見込み、事業の収支状況、事業継続の有無などを踏まえ、各手続のメリット・デメリットを勘案し、適切な債務総額手続を選択することが必要です。