破産管財人による債務の承認と消滅時効の更新事由


破産管財人による債務の承認が、消滅時効の更新事由になるか?を判断した最高裁決定を紹介します。

最高裁令和5年2月1日決定

 破産管財人が破産財団に属する不動産の任意売却に際し、別除権者に対して被担保債権の存在を認めたことが、債務の承認として消滅時効の更新(民法改正前は中断、民法152条1項)事由になるか?が問題になった事案です。

事案の概要

 Yは、Xが所有する本件各不動産について、本件各根抵当権の設定を受けた。Xは、Yから各貸付けを受けたが、平成26年5月、期限の利益を喪失した。

 Xは、平成28年7月、破産手続開始の決定を受け、A弁護士が破産管財人に選任された。Xが上記決定を受けたことにより、本件各根抵当権の担保すべき元本が確定した。本件各根抵当権の被担保債権は、上記各貸付けに係る債権である。

 本件破産管財人は、本件各不動産につき、任意売却を検討し、Yとの間でその受戻しについて交渉をしたが、任意売却の見込みが立たず、Yに対し、破産財団から放棄する予定である旨の破産規則56条後段所定の本件事前通知をした上で、平成29年2月28日付けの書面により、破産裁判所の許可を得て破産財団から放棄した旨の本件放棄通知をした。本件破産管財人は、本件交渉、本件事前通知及び本件放棄通知をするに際し、Yに対して本件各被担保債権が存在する旨の認識を表示した。

 Xは、平成29年5月、破産手続廃止の決定を受けた。

 Yは、令和4年1月、本件各根抵当権の実行としての競売の申立てをし、その後、上記申立てに基づき、本件各不動産について担保不動産競売の開始決定がされた。

 Xは、上記根抵当権の被担保債権が時効によって消滅したことにより上記根抵当権は消滅したと主張して、Yに対し、上記競売手続の停止及び上記根抵当権の実行禁止の仮処分命令の申立てを行った。

原審の判断

 原審は、破産管財人による債務の承認による消滅時効の中断を認めました。

 本件破産管財人がした上記の認識の表示は本件各被担保債権についての債務の承認(民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)147条3号)に当たり、本件各被担保債権の消滅時効を中断する効力を有するから、本件各被担保債権の消滅時効は完成していないとして、本件申立てを却下すべきものとした。

最高裁の判断

 最高裁も以下のとおり、破産管財人による債務の承認による消滅時効の中断を認めました。

 時効の中断の効力を生ずべき債務の承認とは、時効の利益を受けるべき当事者がそのYの権利の存在の認識を表示することをいうのであって、債務者以外の者がした債務の承認により時効の中断の効力が生ずるためには、その者が債務者の財産を処分する権限を有することを要するものではないが、これを管理する権限を有することを要するものと解される(民法156条参照)。

 破産管財人は、その職務を遂行するに当たり、破産財団に属する財産に対する管理処分権限を有するところ(破産法78条1項)、その権限は破産財団に属する財産を引当てとする債務にも及び得るものである(同法44条参照)。破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻し(同法78条2項14号)について上記別除権を有する者との間で交渉したり、上記不動産につき権利の放棄(同項12号)をする前後に上記の者に対してその旨を通知したりすることは、いずれも破産管財人がその職務の遂行として行うものであり、これらに際し、破産管財人が上記の者に対して上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をすることは、上記職務の遂行上想定されるものであり、上記権限に基づく職務の遂行の範囲に属する行為ということができる。

 破産管財人が、別除権の目的である不動産の受戻しについて上記別除権を有する者との間で交渉し、又は、上記不動産につき権利の放棄をする前後に上記の者に対してその旨を通知するに際し、上記の者に対して破産者を債務者とする上記別除権に係る担保権の被担保債権についての債務の承認をしたときは、その承認は上記被担保債権の消滅時効を中断する効力を有すると解するのが相当である。


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