破産手続開始開始決定前に相続があった場合、相続の手続はどうなりますか?
破産手続開始決定前に相続があった場合の問題
相続が開始すると、相続人は、①単純承認(民法920条)するか?②限定承認(民法922条)するか?③相続放棄(民法938条)するか?を選択しなければなりません。
破産手続開始決定前に相続があった場合、破産手続開始決定の時点で、相続人がこれらの選択を行ったかどうか?によって、その後の手続が異なります。
破産手続開始決定までに相続人が単純承認等の選択した場合
破産手続開始決定前に相続があり、相続人が、破産手続開始決定前に、これらの選択を行った場合、第三者が介入することはできません。
①単純承認した場合は、相続財産は、破産財団を構成します。相続債権者・受遺者は、破産債権者となります。
③相続放棄をした場合、相続財産が破産財団を構成することはありません。相続債権者・受遺者も破産債権者ではありません。
破産手続開始決定までに相続人が単純承認等の選択をしていない場合
破産手続開始決定後に相続人である破産者が、①単純承認又は③相続放棄を行った場合、破産財団・破産手続に対する関係では、限定承認があったものと扱われます(破産法238条1項)。
限定承認とは、簡単に言うと、相続財産の範囲内で被相続人の債務を弁済するという制度です。つまり、破産者自身の財産と相続財産は、別々に清算されます。
破産者による単純承認・相続放棄が破産財団との関係で、限定承認として扱われるのは、相続による破産財団の増殖について破産債権者に合理的期待が認められるため、破産者の選択を合理的な範囲で制限しているのです。
限定承認の擬制は相対的
破産財団・破産手続に対する関係で限定承認として扱われるのであって、家事事件手続として限定承認の手続が開始されるわけではありません。
破産手続外では、単純承認・相続放棄の効果は妨げられません。単純承認をした場合、破産者が、相続債権者からの責任を免れるには、免責許可決定を得る必要があります。相続放棄をした場合は、破産者自身は、相続債権者に対する関係では、債務者ではありません。
破産管財人による相続放棄の承認
破産者が相続放棄を選択した場合、破産管財人は、相続放棄を承認することができます(破産法238条2項)。
被相続人が明らかに債務超過である場合、破産者が相続放棄しても、破産財団に不利益は生じません。限定承認と扱うことで、かえって、管理事務の負担が生じることになります。そのような事態を避けるため、破産管財人が相続放棄を承認できる制度が設けられています。
ただし、破産管財人が相続放棄を承認するには、破産裁判所の許可が必要です(破産法78条2項6号)。