破産管財人の第三者性に関して、不法原因給付について判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成26年10月28日判決
破産管財人が公序良俗違反によって、給付された金銭の返還を求めた事案です。
民法708条は、不法な原因のために給付をした者は、その給付の返還を請求できないと規定しています。破産管財人の第三者性と関連して、下級審の判断が分かれていました。
事案の概要
破産会社は、平成22年2月頃から、金銭の出資及び配当に係る事業を開始した。本件事業は、専ら新規の会員から集めた出資金を先に会員となった者への配当金の支払に充てることを内容とする金銭の配当組織であり、無限連鎖講の防止に関する法律2条に規定する無限連鎖講に該当するものであった。
被上告人は、平成22年3月、破産会社と本件事業の会員になる旨の契約を締結した。被上告人は、同年12月までの間に、上記契約に基づき、破産会社に対して818万4,200円を出資金として支払い、破産会社から2,951万7,035円の配当金の給付を受けた。
破産会社は、本件事業において、少なくとも、4,035名の会員を集め、会員から総額25億6,127万7,750円の出資金の支払を受けたが、平成23年2月21日、破産手続開始の決定を受け、上告人が破産管財人に選任された。
その後、破産管財人である上告人は、被上告人と破産会社との間の契約が公序良俗に反して無効であるとして、当該契約により破産会社から金銭の給付を受けた被上告人に対し、不当利得返還請求権に基づき、上記の給付額の一部及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。
原審の判断
原審は、本件配当金の給付が不法原因給付に当たることから、上告人は民法708条の規定によりその返還を請求することができないと判断しました。
最高裁の判断
最高裁は、原審の判断を覆し、破産管財人による返還請求を認めました。
本件配当金は、関与することが禁止された無限連鎖講に該当する本件事業によって被上告人に給付されたものであって、その仕組み上、他の会員が出えんした金銭を原資とするものである。そして、本件事業の会員の相当部分の者は、出えんした金銭の額に相当する金銭を受領することができないまま破産会社の破綻により損失を受け、被害の救済を受けることもできずに破産債権者の多数を占めるに至っているというのである。このような事実関係の下で、破産会社の破産管財人である上告人が、被上告人に対して本件配当金の返還を求め、これにつき破産手続の中で損失を受けた上記会員らを含む破産債権者への配当を行うなど適正かつ公平な清算を図ろうとすることは、衡平にかなうというべきである。仮に、被上告人が破産管財人に対して本件配当金の返還を拒むことができるとするならば、被害者である他の会員の損失の下に被上告人が不当な利益を保持し続けることを是認することになって、およそ相当であるとはいい難い。
したがって、上記の事情の下においては、被上告人が、上告人に対し、本件配当金の給付が不法原因給付に当たることを理由としてその返還を拒むことは、信義則上許されないと解するのが相当である。