弁護士への債務整理の依頼と破産手続開始原因である支払停止


弁護士との間で破産申立てを行うと決めた段階で、支払停止に当たるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁昭和60年2月14日判決

 否認権の行使に関連して、債務者が弁護士との間で破産申立の方針を決めた段階で、支払停止(破産手続開始原因である支払不能と支払停止参照)に当たるか?が争われました。この事案は、単に方針を決めたにとどまり、まだ、外部に表明していないことがポイントです。

 ※弁護士が債務者の代理人として、債権者に受任通知を送った行為が支払停止に当たるか?を判断した最高裁判決を紹介した弁護士による債務整理の通知と破産手続開始原因である支払停止参照

事案の概要

 Aは、建築請負業、不動産業に従事するものであるところ、昭和55年頃から資金繰りが苦しくなり、昭和56年夏頃には所有の別荘地やゴルフ場の会員権を売却するなどして営業資金を捻出していた。

 Aは、昭和56年4月10日上告人Yから、ほか1名と用意した金員であると聞かされ、弁済期を同年8月末として1,500万円を借り受け、その際、本件土地建物について本件仮登記の原因たる契約を締結し、上告人Yの求めに応じて、領収証、印鑑証明書、住民票写、委任状、金銭貸借関係書類を交付した。

 Aは、同年8月頃上告人Yに融資の打診をしたが断わられ、いよいよ資金繰りに窮し、同年9月末頃かねて知り合いの弁護士Bに対して、債務整理の方法等について相談したい旨電話した。

 上告人Yは、その2、3日後B弁護士に対し電話で、Aが相談に行っているそうだがどうする方針か、破産の申立になるのかと問い合わせ、B弁護士から、まだ相談を受けている段階であり、具体的な方針などは決まっていない旨の回答を得た。

 Aは、同年10月8日B弁護士と面談のうえ債務の整理について相談した結果、同月15日満期の約束手形の決済が困難なので、破産の申立をするとの方針を決めた。

 上告人Yは、同月12日A方を訪ね、登記手続に必要な新しい日付の印鑑証明書を受け取ったうえ、同月14日司法書士Cに本件各仮登記手続を依頼し、同司法書士は翌15日本件各仮登記手続を終了した。

 一方、Aは、同月14日の夜自宅に「爾後弁護士Bが管理する」旨の貼紙をして家を出た。B弁護士は、同月15日Aの代理人として破産の申立をするとともに破産宣告前の保全処分の決定を得たが、その登記は本件各仮登記に後れるものであった。Aは同月29日午前10時大阪地方裁判所において破産宣告を受け、被上告人が破産管財人に選人された。

最高裁の判断

 最高裁は、債務者が弁護士との間で破産申立の方針を決めただけでは、支払停止には至っていないと判断しました。

 支払停止とは、債務者が資力欠乏のため債務の支払をすることができないと考えてその旨を明示的又は黙示的に外部に表示する行為をいうものと解すべきところ、債務者が債務整理の方法等について債務者から相談を受けた弁護士との間で破産申立の方針を決めただけでは、他に特段の事情のない限り、いまだ内部的に支払停止の方針を決めたにとどまり、債務の支払をすることができない旨を外部に表示する行為をしたとすることはできないものというべきである。


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