破産法の否認権の類型に、特殊な要件を定めたものがあります。その内の対抗要件の否認と執行行為の否認を取上げます。
対抗要件の否認
債務者が自分の財産を第三者に譲渡や担保提供するなど、権利変動の原因行為を行っているにもかかわらず、登記等の対抗要件を具備する行為を行わず、支払停止又は破産申立後に、登記等を行うのは、債務者の財産状態に対する一般債権者の信頼を裏切り、債権者平等に反すると考えられます。
そこで、破産法は、原因行為とは別に、対抗要件の具備自体を否認することを認めています(破産法164条)。
対抗要件の否認が認められる場合、原因行為について否認が成立するかにかかわりなく、債権者は権利の設定等の効力を破産管財人に対抗できなくなります。
対抗要件の否認の対象
対象となる対抗要件の具備行為は、登記・登録・仮登記・仮登録・動産の引渡し・債権譲渡通知などです。
対象行為が支払停止又は破産申立後に行われ、その行為が権利の設定・移転等があった日から15日経過後、支払停止等があったことを知ってなされた場合に、否認することができます。
破産手続開始原因である支払不能と支払停止
破産を申立てるには、破産手続開始原因があることが必要です。 破産手続開始原因は、支払不能です。支払停止があると、支払不能であることが推定されます。
対象行為が支払停止後になされたものである場合、破産申立日から1年以内になされたものが否認の対象になります(破産法166条)。
執行行為の否認
破産法は、詐害行為や偏頗行為が債務名義を持つ債権者が受益者として行われる場合や、執行機関による執行行為を通じて行われる場合であっても、否認対象行為に該当することを規定しています(破産法165条)。
したがって、執行行為の否認は、新たな否認の類型ではなく、詐害行為否認(破産法160条1項1号)や偏頗行為否認(破産法162条1項1号)の問題ということになります。
執行行為の否認が問題になる場面
執行行為の否認は、以下のような場合に問題になります。
執行行為の否認が問題となる場合
①否認しようとする行為について執行力のある債務名義が存在する場合
②否認しようとする行為が執行行為に基づく場合
①否認しようとする行為に債務名義がある場合
この場合、さらに以下の3つの場面が問題となります。
否認しようとする行為に債務名義がある場合の問題
(1)債務名義の内容となる義務を生じさせた破産者の原因行為の否認
(2)請求の認諾、裁判上の和解、裁判上の自白等の債務名義を成立させる行為の否認
(3)債務名義による権利実現の否認
②否認しようとする行為が執行行為に基づく場合
この場合は、以下の2つの場面で問題になります。
否認しようとする行為が執行行為に基づく場合の問題
(1)執行行為に基づく債権者の満足の否認
(2)執行行為に基づく権利移転等の否認