賃貸借契約の破産手続開始後に生じる賃料の性質を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和48年10月30日判決
賃借人が破産した後に、賃貸借契約が解約されない場合の賃料債権の性質を判断した最高裁判決です。
事案の概要
Aは、昭和36年4月7日、被上告人から本件土地を建物所有の目的で期間は昭和56年4月7日までの約定で賃借し、本件土地上に本件建物を所有していたが、昭和45年4月23日午前10時東京地方裁判所より破産宣告を受け、上告人が破産管財人に選任されたところ、被上告人は民法621条に基づき同年5月16日付書面で賃貸借契約を解約する旨の意思表示をし、その書面がその頃、上告人に到達した。
最高裁の判断
最高裁は、賃借人が破産した後、賃貸借が解約されない場合の賃料債権は、財団債権だと判断しました。
旧借地法の適用のある賃貸借契約の賃借人が破産宣告を受けた場合、この賃借人が貸借土地上に建物を所有しているときには、賃貸人が民法621条に基づき賃貸借契約の解約申入をするためには、旧借地法4条1項但書、6条2項の正当事由が解約申入の時から民法617条の所定の期間満了に至るまで存続することを要し、この正当事由を欠くときは解約申入はその効力を生じないものと解すべきである。
正当事由の有無は、賃貸借契約の各当事者の自己使用の必要性のほか、破産宣告前の未払賃料の有無・その額、破産財団の賃料支払能力、開始された破産手続の推移、たとえば、和議または更正手続への移行・その成否の見込、賃貸人の立退料支払意思の有無・その額等の諸事情を考慮し、賃貸人に賃貸借関係の存続を要求することが酷な結果となるかどうかをも斟酌して、判断すべきである。
民法621条は、賃借人が破産宣告を受けた場合、賃貸人が賃貸借契約を解約しうる旨規定しているが、同規定は賃貸借契約一般についての規定であり、ある賃貸借契約について、賃貸人が、賃借人の破産という事実のみに基づき、解約権を行使しうると解すべきか、またはこれを行使するについて他の要件の具備が必要であると解すべきかは、当該賃貸借契約の当事者等の利害関係、当該賃貸借契約に関する他の法律の規制をも考慮して決すべきである。しかして、旧借地法の適用をうける賃貸借契約の賃借人が破産宣告を受けたことそれ自体は、賃借人の債務不履行を構成するものでないことはいうまでもなく、賃借人の破産が直ちに土地の賃貸借における信頼関係を破壊するものということはできず、また、破産宣告の日以後の賃料は、賃借土地が破産財団のために利用されているのであるから、旧破産法47条7号の適用または類推適用により、財団債権となると解すべきであり、したがって、賃借人が破産宣告を受けたのちに賃貸借関係を存続せしめても賃貸人に不利益を強いるものとはいえず、かえって、賃借人が破産宣告を受けたことによって賃貸人がそのことだけで賃貸借契約を解約しうるとすれば、賃借人の破産という偶然的事態によって賃借人が事実上利得することとなる反面、破産財団から借地権を逸出せしめ、借地上に営まれている賃借人の生活関係またはその継続企業を一挙に崩壊または解体することを余儀なくさせ、和議または更生手続による賃借人(破産者)の債権者の債権回収および賃借人の更正を不可能ならしめる等、賃借人およびその債権者に対し多大の損失を及ぼすこととなって著しく不当な結果となることが、明らかである。また、民法の施行後制定された借地法は、借地関係の存続を保障し、もって借地上の建物を保護し、かつ、借地人の生活の安定をはかることを目的とし、借地関係の終了に正当事由を要求している。以上のことを考えると、借地法の適用のある賃貸借契約の賃借人が破産宣告を受けても、賃借人が賃借土地上に建物を所有しているかぎり、賃貸人が民法621条によって解約申入をする場合には、旧借地法4条1項、6条2項に準じ、前記のように解するのが相当である。