訴訟代理人の訴訟行為の排除決定


訴訟代理人の訴訟行為の排除決定に関する最高裁決定を紹介します。

最高裁平成29年10月5日決定

 弁護士法25条1号に違反する訴訟行為及び同号に違反して訴訟代理人となった弁護士から委任を受けた訴訟復代理人の訴訟行為が、問題になった事案です。

 弁護士法25条は、弁護士が依頼を受けることができない事件を規定しています。本判決で問題になっている弁護士法25条1号は、利益相反の一つです。

(職務を行い得ない事件)

第二十五条 弁護士は、次に掲げる事件については、その職務を行つてはならない。ただし、第三号及び第九号に掲げる事件については、受任している事件の依頼者が同意した場合は、この限りでない。

 相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件

事案の概要

 破産者A社の破産管財人である抗告人X2、破産者D社の破産管財人である抗告人X1及び破産者B社の破産管財人である抗告人X3を原告とし、相手方C社を被告とする訴訟において、抗告人らが、上記各破産者との間で委任契約を締結していた弁護士である相手方Y2及び同Y3が相手方C社の訴訟代理人として訴訟行為をすることは弁護士法25条1号に違反すると主張して、相手方Y2及び同Y3の各訴訟行為の排除を求めるとともに、相手方Y2から委任を受けるなどして相手方C社の訴訟復代理人等となった弁護士である相手方Y1の訴訟行為の排除を求めた。

 B社、A社及びD社(以下、併せて「A三社」という。)は、それぞれ、平成26年4月3日、相手方Y2及び同Y3との間で、再生手続開始の申立て、再生計画案の作成提出等についての委任契約を締結した。

 B社は、平成26年4月24日、相手方Y2及び同Y3を申立代理人として、長崎地方裁判所に対し、再生手続開始の申立てをした。その申立書には、B社は、相手方C社をスポンサーとして、再生手続を進める予定である旨記載されていた。

 B社は、平成26年5月16日、再生手続開始の決定を受けた。しかし、相手方C社は、同年6月下旬、B社に対する支援を打ち切った。B社は、同年7月11日、再生手続廃止の決定を受け、同決定は同年8月6日の経過により確定した。

 B社は、平成26年8月7日、破産手続開始の決定を受け、抗告人X3が破産管財人に選任された。

 A社及びD社は、それぞれ、平成26年8月21日、破産手続開始の決定を受け、抗告人X2がA社の破産管財人に、抗告人X1がD社の破産管財人に、選任された。

 抗告人らは、それぞれ、平成27年8月から平成28年2月にかけて、相手方C社を被告とする4件の訴訟を長崎地方裁判所に提起した。これらの各訴訟における主たる請求の内容は、

 ①抗告人X2が、相手方C社に対し、A社の相手方C社に対する送金等に関して否認権を行使して金員の支払を求めるとともに、A社の相手方C社に対する運送代金債権に基づき金員の支払を求めるもの(以下、「甲事件」という。)。

 ②抗告人X1が、相手方C社に対し、D社の相手方C社に対する送金に関して否認権を行使して金員の支払を求めるもの(以下、「乙事件」という。)。  

 ③抗告人X3が、相手方C社に対し、B社の相手方C社に対する不当利得返還請求権に基づき金員の支払を求めるもの(以下、「丙事件」という。)。

 ④抗告人X1が、相手方C社に対し、D社の相手方C社に対する運送代金債権及び不当利得返還請求権に基づき金員の支払を求めるもの(長崎地方裁判所平成28年(ワ)第50号売掛金支払等請求事件(以下、「丁事件」という。)である。)であった。

 甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件は、併合審理された(以下、併合後の訴訟を「本件訴訟」という。)。

 上記のA社及びD社の相手方C社に対する各運送代金債権並びにB社及びD社の相手方C社に対する各不当利得返還請求権は、いずれも、相手方Y2及び同Y3がA三社から本件各委任契約に基づく委任を受けていた間に発生したとされるものであり、上記の否認権行使に係るA社及びD社の相手方C社に対する各送金等も、その間に行われたものであった。

 相手方Y2及び同Y3は、甲事件、乙事件、丙事件及び丁事件について、相手方C社からそれぞれ委任を受けて訴訟代理人となった。相手方Y1は、甲事件、乙事件及び丙事件について、相手方Y2から委任を受けて訴訟復代理人となり、丁事件について、相手方C社から委任を受けて訴訟代理人となった。

 抗告人らは、平成28年8月1日、長崎地方裁判所に対し、本件訴訟において相手方Y2、同Y3及び同Y1が訴訟行為をすることが弁護士法25条1号に違反することを理由として、上記相手方3名の各訴訟行為の排除を求める申立てをした。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、訴訟代理人及び訴訟復代理人の訴訟行為を排除すべきと判断しました。

 弁護士法25条1号は、先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を保護するとともに、弁護士の職務執行の公正を確保し、弁護士の品位を保持することを目的とするものであるところ、同号に違反する訴訟行為については、相手方である当事者は、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができるものと解される。同号に違反して訴訟代理人となった弁護士から委任を受けた訴訟復代理人の訴訟行為についても、相手方である当事者は、同様に、訴訟復代理人の選任が同号に違反することを理由として、これに異議を述べ、裁判所に対しその行為の排除を求めることができるものと解される。同号が当事者の利益の保護をも目的としていることからすると、相手方である当事者は、裁判所に対し、同号に違反することを理由として、上記各訴訟行為を排除する旨の裁判を求める申立権を有するものと解すべきである。

 当事者は、その訴訟代理人及び訴訟復代理人の訴訟行為が排除されるか否かについて利害関係を有することは明らかであるから、同号に違反することを理由として自らの訴訟代理人又は訴訟復代理人の訴訟行為を排除する旨の決定に対する不服申立ての機会を与えられるべきである。他方で、上記決定については、訴訟の迅速な進行を図るため、その判断内容を早期に確定する必要性が認められる。このことは、訴訟手続からの排除という点で類似する除斥又は忌避を理由がないとする決定についても同様であり、この決定に対する不服申立ては即時抗告によるものとされている。弁護士法25条1号に違反することを理由として訴訟行為を排除する旨の決定に対しては、自らの訴訟代理人又は訴訟復代理人の訴訟行為を排除するものとされた当事者は、民訴法25条5項の類推適用により、即時抗告をすることができるものと解するのが相当である。

 上記決定において訴訟行為を排除するものとされた訴訟代理人又は訴訟復代理人は、当事者を代理して訴訟行為をしているにすぎず、訴訟行為が排除されるか否かについて固有の利害関係を有するものではないと解される。したがって、上記決定に対しては、上記訴訟代理人又は訴訟復代理人は、自らを抗告人とする即時抗告をすることはできないものと解するのが相当である。

 A三社は、破産手続開始の決定を受ける前に、相手方Y2及び同Y3との間で、本件各委任契約を締結していたのであるから、相手方Y2及び同Y3は、A三社の依頼を承諾して、A三社の業務及び財産の状況を把握して事業の維持と再生に向けて手続を主導し、債権の管理や財産の不当な流出の防止等についてA三社を指導すべき立場にあったものである。そして、本件訴訟における主たる請求の内容は、相手方Y2及び同Y3がA三社から委任を受けていた間に発生したとされるA三社の相手方C社に対する各債権を行使して金員の支払を求めるもの並びに上記の間に行われたA社及びD社の相手方C社に対する各送金等に関して否認権を行使して金員の支払を求めるものである。したがって、本件訴訟がA三社の債権の管理や財産の不当な流出の防止等に関するものであることは明らかである。

 また、本件訴訟において相手方C社と対立する当事者はA三社の各破産管財人である抗告人らであるのに対し、本件各委任契約の依頼者はA三社であるが、破産手続開始の決定により、破産者の財産に対する管理処分権が破産管財人に帰属することになることからすると、本件において弁護士法25条1号違反の有無を検討するに当たっては、破産者であるA三社とその各破産管財人とは同視されるべきである。

 本件訴訟は、相手方Y2及び同Y3にとって、同号により職務を行ってはならないとされる「相手方の・・・依頼を承諾した事件」に当たるというべきである。以上によれば、相手方Y2及び同Y3が本件訴訟において相手方C社の訴訟代理人として訴訟行為を行うことは、同号に違反するものというべきである。

 したがって、本件訴訟における相手方Y2及び同Y3の各訴訟行為は排除されるべきものであり、甲事件、乙事件及び丙事件について相手方Y2から委任を受けて訴訟復代理人となった相手方Y1の訴訟行為も排除されるべきものである。


PAGE TOP