支払督促と消滅時効に関する最高裁判決


支払督促と消滅時効に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁第二小法廷平成29年3月13日判決

 支払督促と保証債務の消滅時効に関する最高裁判決です。

事案の概略

 XがAに7億円を貸し付けた。その後、X・Y間で債務弁済契約を公正証書により作成した。この債務弁済契約は、XがYに1億1,000万円を貸付け、1,000万円ずつ11回の分割で支払うという内容だった。

 実は、この債務弁済契約は、Aがすでに債務の弁済を遅滞していたことから、1億1,000万円の限度でYがAの債務を連帯保証する趣旨で作成された。

 XはYに対し、貸金1億1,000万円のうち1億0,950万円の支払いを求める支払督促を申立て・仮執行宣言の申立てをし、仮執行宣言付支払督促は確定した。

支払督促とは?

 金銭の支払いを求める請求について、債権者の申立てにより、実質的な審理をせずに簡易裁判所の書記官が給付を命じる手続きが支払督促です(民訴法382条)。債権者の申立てのみ(民訴法386条1項)で、債務名義を取得することができる点に大きな特徴があります。

 支払督促の申立てにより、支払督促が発付されます(民訴法386条1項)。支払督促が債務者に送達されてから2週間以内に債務者から異議の申立てがなければ、債権者の申立てにより、支払督促に仮執行宣言が付されます(民訴法391条1項)。

 仮執行宣言付の支払督促は債務者への送達時に効力が生じ(民訴法388条2項)、債権者は強制執行をすることができます。

 このように、支払督促の手続きは、①支払督促の申立てと②仮執行宣言の申立ての二段階の手続きになっています。債務者は、①又は②のそれぞれの段階で、異議を申出ることができます(督促異議、民訴法390条・393条)。

 ①支払督促について、督促異議の申出があれば、支払督促は効力を失い、通常訴訟に移行します(民訴法395条)。②仮執行宣言付の支払督促に対して、督促異議があった場合も、通常訴訟に移行します。しかし、効力は失わず、債権者は強制執行をすることができます。強制執行を止めるには、別途、強制執行の停止又は取消しが必要になります。

本件の争点

 XがYに対し、保証契約に基づく保証債務の支払いを求め、訴訟提起しました。

 Yは保証債務が時効により消滅しているとして消滅時効を援用しました。一方、Xは、支払督促により、消滅時効は中断している主張しました。

 保証債務の時効が成立しているのか?それとも時効は中断しているのか?が争点になっています。

原審の判断

 原審は、貸金の支払督促により、保証債務の消滅時効は中断していると判断しました。X・Y間の公正証書は、保証債務の趣旨で作られ、支払督促は公正証書に基づく債権を行使するもので、貸金債権の権利主張は、保証債務履行請求権の権利主張の一手段・一態様といえるというのが理由です。

最高裁の判断

 貸金請求権と保証債務履行請求権では、根拠となる事実は両立するものではなく、貸金請求権の根拠となる事実は、保証契約の成立を否定するものであり、貸金請求権の行使と保証債務履行請求権の行使は相容れないと判断しています。

 したがって、支払督促により貸金請求権が行使されたことにより、別個の権利である保証債務履行請求権を行使されたと評価することはできず、保証債務履行請求権の消滅時効は中断しないと結論付けています。


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