司法書士の代理権の範囲を超える裁判外の和解の効力


司法書士のうち、認定司法書士は、請求額が140万円までの簡易裁判所における裁判や裁判外の代理業務を行うことが可能です。司法書士が代理権の範囲を超えて締結した裁判外の和解の有効性を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成29年7月24日判決

 破産管財人が貸金業者に対して、いわゆる過払金を請求した事案です。過去に、破産者が司法書士に依頼して、司法書士の代理権限を越える和解を締結していました。本判決では、この和解契約の有効性が争われました。

 なお、債務整理における司法書士の代理権の範囲については、弁護士と司法書士をご参照ください。

事案の概要

 破産者であるAは、貸金業者Yとの間で、平成8年5月から平成20年11月まで利息制限法の制限利率を超過する利息の約定で継続的な金銭消費貸借取引を続けた。その結果、330万円以上の過払金が発生していた。

 Aは平成20年12月、司法書士Bに債務整理を依頼した。その際、BはAに対し、過払金の額が140万円を超える場合、司法書士は代理人になれないことを説明した。その後、BはYから取引履歴の開示を受け、上記のとおり330万円以上の過払金が発生していることが判明した。

 BはAに対し、代理人になることができないことを説明したが、AがBに過払金返還請求を依頼することを希望したため、BはAと委任契約を締結した。その後、平成21年4月、BとYとの間で過払金200万円を返還するとの裁判外の和解契約が成立した。

 平成28年2月、Aは、破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任された。

原審の判断

 原審は、次のとおり、本件の和解契約は無効であると判断しました。

 Bが代理人として本件の和解契約を締結した行為は、弁護士法72条に違反するものであり、Aとの委任契約は無効であり、無効な委任契約に基づく本件の和解契約も無効である。

最高裁の判断

 最高裁は、次のように述べ、認定司法書士が、弁護士法72条に違反して締結した和解契約であっても、直ちに無効とはならないと判断しました。

 弁護士法72条は、弁護士以外の者が、報酬を得る目的で法律事件に関して代理や和解等の法律事務を取り扱うことを業とすることができないと規定している。認定司法書士が、報酬を得る目的で業として140万円を超える過払金返還請求について裁判外の和解をすることについて委任契約を締結することは、弁護士法72条に違反するもので、当該委任契約は民法90条に照らし無効となる。

 この場合、認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することも弁護士法72条違反であるが、和解契約の効力は、委任契約の効力と別に弁護士法の趣旨を達するために和解契約を無効とする必要があるかどうか等を考慮して判断されるべきである。

 弁護士法72条の趣旨は、弁護士資格がない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とすることを放置すると、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律事務に係る社会生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、法律秩序を害することになるので、その行為を禁止するものと解される。

 弁護士法72条違反は刑事罰の対象とすることで、実効性を保障することとしている。そして、認定司法書士による裁判外の和解契約の締結が弁護士法72条に違反する場合、懲戒の対象となる上、委任契約は無効なので、委任者から報酬を受け取ることができない。

 上記のような弁護士法72条の実効性を保障する規律等に照らすと、認定司法書士による弁護士法72条に違反する行為を禁止するために、認定司法書士が代理人として締結した裁判外の和解契約の効力まで否定する必要はない。

 したがって、認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが弁護士法72条に違反する場合であっても、当該和解契約は、その内容及び締結に至る経緯等に照らし、公序良俗違反の性質を帯びるような特段の事情がない限り、無効とはならない。


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