担保権実行手続中止命令


個人再生手続において、利用する機会はあまりありませんが、担保権実行手続中止命令を取上げます。

担保権実行手続中止命令

 再生手続開始決定時において、再生債務者の財産に存在する担保権を有する者は、その目的の財産について別除権を有し(民事再生法53条1項)、再生手続によらずに権利を行使することができます(民事再生法53条2項)。

 一方で、再生債務者の事業継続に必要不可欠な工場や店舗といった不動産が担保不動産競売されてしまうと、事業の再生ができなくなります。そこで、担保権実行手続中止命令(民事再生法31条1項本文)という制度があります。

 裁判所は、再生手続開始申立てがあった場合、①再生債権者の一般の利益に適合し、かつ、②競売申立人に不当な損害を及ぼすおそれがないと認めるときは、利害関係人の申立て又は職権で、相当の期間を定めて、別除権となる担保権の実行手続の中止を命じることができます。

 ただし、被担保債権が共益債権又は一般優先債権の場合は、担保権実行手続中止命令は認められません(民事再生法31条1項但書)。

担保権実行手続中止命令の手続

 裁判所が、担保権実行手続中止命令を発するには、競売申立人の意見を聴く必要があります(民事再生法31条2項)。中止命令に対して、競売申立人は、即時抗告をすることができます(民事再生法31条4項)。また、執行停止の効力はありません(民事再生法31条5項)。

再生債権者の一般の利益に適合

 要件の一つである再生債権者の一般の利益に適合とは、担保権が実行されない方が、再生債務者の事業が継続でき、再生債権者への再生計画による弁済が多くなることを意味しています。

 また、担保権者は、担保目的物から優先弁済を受けることができるので、担保権の実行を中止することで、不当な損害を及ぼさないように配慮するという趣旨でもあります。

担保権実行手続中止命令の対象

 担保権実行手続中止命令の対象となるのは、再生債務者の財産について存在する担保権の実行手続です。再生債務者のために、第三者が所有する財産をもって物上保証をしている場合は、対象外です。

 たとえば、再生債務者の事業用資産が親族等の第三者名義で、その財産に担保権が設定されている場合は、担保権実行手続中止命令の対象外です。


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