破産者が自由財産から破産債権者に任意に弁済を行うことはできるか?を判断した最高裁判決を紹介します(自由財産については、破産手続における自由財産の拡張参照)。
最高裁平成18年1月23日判決
地方公務員共済組合の組合員の破産手続の事案です。
破産手続中に、自由財産である退職手当の中から組合の破産債権に対して、地方公務員等共済組合法115条2項所定の弁済方法(退職手当からの天引き)によりされた弁済の有効性が、争われました。
事案の概要
①被上告人は、Aに勤務する地方公務員であった者である。②被上告人は、上告人から、平成元年8月14日から平成13年6月29日にかけて、5回にわたり、合計1,200万円の貸付けを受けた。
③被上告人は、平成14年6月10日午前10時、徳島地方裁判所において破産宣告を受け、破産管財人が選任された。④被上告人は、平成14年12月31日,Aを退職した。
⑤被上告人の給与支給機関であるB事務組合は、平成15年2月3日ころ、破産管財人に対し、被上告人の破産宣告時に退職したとすれば支給されたであろう退職手当に相当する1,841万5,200円の4分の1に当たる460万3,800円を破産財団に属する財産として交付し、そのころ、上告人に対し、地方公務員等共済組合法115条2項に基づき、被上告人に支給すべき退職手当の中から本件各貸付金残金に相当する431万0,293円を控除してこれを払い込み、その後、被上告人に対し、破産財団に組み入れられた上記460万3,800円及び本件払込金431万0,293円を控除した残りの退職手当を支給した。
⑥被上告人は、本件払込みに当たって、上告人又は本件事務組合との間で、地共法115条2項所定の方法(組合員の給与支給機関が組合員において組合に対して支払うべき金員を給料その他の給与から控除して組合員に代わって組合に払い込む方法)により、本件退職手当の中から本件各貸付金残債務を弁済することにつき合意をしたことはなかった。
最高裁の判断
最高裁は、破産者の自由財産からの弁済について、任意で行ったものであれば有効であると判断しました。ただし、任意かどうか?の判断は、厳格になされるべきと述べています。
破産手続中、破産債権者は破産債権に基づいて債務者の自由財産に対して強制執行をすることなどはできないと解されるが、破産者がその自由な判断により自由財産の中から破産債権に対する任意の弁済をすることは妨げられないと解するのが相当である。もっとも、自由財産は本来破産者の経済的更生と生活保障のために用いられるものであり、破産者は破産手続中に自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことからすると、破産者がした弁済が任意の弁済に当たるか否かは厳格に解すべきであり、少しでも強制的な要素を伴う場合には任意の弁済に当たるということはできない。
その上で、最高裁は、本件の弁済は、任意ではないと判断しました。
地共法の弁済方法は、組合員の給与支給機関が組合に対する組合員の債務の弁済を代行するものにほかならず、組合員が破産宣告を受けた場合において、地共法115条2項により、組合員の自由財産である退職手当の中から組合の破産債権につき地共法の弁済方法で弁済を受け得る地位が組合に付与されたものと解することはできない。
組合員の破産手続中にその自由財産である退職手当の中から地共法の弁済方法により組合員の組合に対する貸付金債務についてされた弁済が、組合員による任意の弁済であるというためには、組合員が、破産宣告後に、自由財産から破産債権に対する弁済を強制されるものではないことを認識しながら、その自由な判断により、地共法の弁済方法をもって上記貸付金債務を弁済したものということができることが必要であると解すべきである。
被上告人が、本件払込みに当たって、上告人又は本件事務組合との間で、地共法の弁済方法により本件退職手当の中から本件各貸付金残債務を弁済することにつき合意をしたことはなかったというのであり、他に任意性を肯定し得る事情がうかがわれない本件においては、本件払込みが被上告人による任意の弁済であるということはできない。