大阪地裁における破産の同時廃止の運用基準の変更


大阪地裁における破産の同時廃止事件の運用基準が平成29年10月1日以降に申立てのあった事件から変更されます。運用基準の変更に伴い、同時廃止事件として処理されてきた事件が管財事件と処理される事件が増える可能性があります。

現在の大阪地裁の運用基準

 新基準の前に、現在の大阪地裁の運用基準をおさらいしておきます。詳細は、破産手続きにおける同時廃止と管財事件の振分け破産・同時廃止の按分弁済基準をご参照ください。

財産の分類

 破産者の財産を現金・普通預貯金とそれ以外の財産に分類します。まず、現金と普通預貯金の合計が99万円以下であれば、同時廃止事件として処理しています。現金・普通預貯金以外の財産は、個別の財産が20万円未満であれば、同時廃止事件として処理されます。

按分弁済

 現金・普通預貯金が99万円を超える場合や、個別の財産が20万円以上の場合は、原則として管財事件として処理されます。しかし、債権者に按分弁済を行うことで、同時廃止として処理することが認められています。ただし、個別の財産の合計が100万円を超える場合は、按分弁済は認められず、管財事件になります。

ダブルスタンダード

 個別の財産が20万円未満であっても、現金・普通預貯金とすべての財産の合計が99万円を超える場合は、99万円を超える部分を按分弁済することで、同時廃止事件として処理することが認められています。

大阪地裁の新基準

 平成29年10月1日以降の大阪地裁の新基準は、次のとおりです。

現金・普通預貯金

 大阪地裁では、普通預貯金を現金に準じるものとして取扱っています。新基準でも普通預貯金は、引き続き現金に準じるものとして取扱われます。

50万円基準

 申立時に、現金・普通預貯金が50万円を超える場合、実際に所持している現金等が本来的自由財産(破産法34条3項)である99万円を超えていたり、現金等以外に20万円以上の財産を持っている蓋然性は否定しがたいと指摘しています。

 そこで、大阪地裁の新基準では、破産者の申立時の現金・普通預貯金の合計額が50万円を超える場合、管財事件として処理されることになります。

 ※本来的自由財産については、破産手続における自由財産の拡張も参照ください。

按分弁済の廃止

 大阪地裁で行われている按分弁済することで同時廃止事件として処理するという運用は、新基準では廃止されます。

現金・普通預貯金以外の財産

 大阪地裁では、現金・普通預貯金以外の財産を以下の12の財産に分類しています。その分類は、新基準でも変わりません。

大阪地裁における財産の分類

①預貯金(普通預金以外)

②保険の解約返戻金

③積立金

④敷金

⑤貸付金

⑥退職金

⑦不動産

⑧自動車

⑨⑧以外の動産

⑩①~⑨以外の財産

⑪近日中に取得することが見込まれる財産

⑫過払い金

 ①~⑫の財産の評価額が20万円以上のものがない場合は、同時廃止事件として処理することも新基準でも変わりません。新基準では、按分弁済が廃止されるので、20万円以上の財産がある場合は、管財事件として処理することになります。

ダブルスタンダードは廃止

 大阪地裁の現在の運用では、個別の財産が20万円未満であっても、現金・普通預貯金とすべての財産の合計が99万円を超える場合、同時廃止として処理するためには、99万円を超える部分を按分弁済が必要でした。

 新基準では、按分弁済自体が廃止されることから、ダブルスタンダードについても廃止されます。現金・普通預貯金と上記①~⑫の財産の合計額が99万円を超える場合も同時廃止として処理される余地があります。

直前現金化について

 大阪地裁では、実質的危機時期以降に財産を現金化した場合を直前現金化として、現金に換価する前の財産として扱っています(破産手続における自由財産拡張と直前現金化参照)。たとえば、破産申立直前に保険を解約し解約返戻金を受け取った場合、解約返戻金は現金や普通預金ではなく、保険として評価するということです。

 同時廃止における按分弁済についても同様に、換価前の財産として扱っています。そのため、実質的時期以降に財産を現金化した場合は、上記の按分弁済基準に従い、按分弁済の要否を判断しています。

 新基準では、①50万円以上の現金等があれば管財事件になること、②按分弁済が廃止されることから、直前現金化の運用が廃止されます。

 大阪地裁の説明では、①現金5万円、②保険の解約返戻金30万円で他に財産のないというケースで、実質的危機時期以降に保険を解約して現金35万円を持っている場合、他に管財事件に移行する事情がなければ、同時廃止として処理されるとしています。


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