破産手続における否認権の行使に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁平成9年12月18日判決

 動産の買主が転売先から取り戻した動産を売主に対する売買代金債務の代物弁済に供した行為が否認権の対象になるかどうかが争われた事案です。

事案の概要

 破産会社は,紳士服等の卸売を業とする会社であり,平成2年7月27日ころ,被上告人からスーツ106着を一着12万5000円,代金支払期日同年9月10日の約定で買い受け,うち50着をA社に転売して引き渡し,同会社から売買代金の支払のために振り出された約束手形二通(額面合計550万円)を受け取った。

 破産会社は,平成2年7月31日に第一回目の手形不渡りを出し,支払を停止した。

 破産会社は,被上告人から要請を受けてA社に対して本件物件の返還を求めた。そして,交渉の結果,平成2年8月3日,三者間において,破産会社とA社は本件物件の転売契約を合意解除し,破産会社は,A社から受け取っていた上記約束手形を返還し,これと引き換えに本件物件の返還を受けて,これを被上告人に対する本件物件の売買代金債務の弁済に代えて譲渡する旨の合意が成立し,本件物件は,合意に基づいて,A社から被上告人の事務所に直送された。

 破産会社は,平成2年8月24日,破産の申立てをし,同年9月4日に破産宣告を受け,上告人が破産管財人に就任した。

最高裁の判断

 被上告人は,本件物件につき動産売買の先取特権を有していたが,本件物件がA社に転売されて引き渡されたため,本件物件に対して先取特権を行使し得なくなったところ,その後に支払を停止した破産会社は,本件物件を被上告人に返還する意図の下に,転売契約を合意解除して本件物件を取り戻した上,本件代物弁済を行ったものと認められる。

 ところで,動産売買の先取特権の目的物が買主から第三取得者に引き渡された後に買主がその所有権及び占有を回復したことにより,売主が目的物に対して再び先取特権を行使し得ることになるとしても,破産会社が転売契約を合意解除して本件物件を取り戻した行為は,被上告人に対する関係では,法的に不可能であった担保権の行使を可能にするという意味において,実質的には新たな担保権の設定と同視し得るものと解される。そして,本件代物弁済は,本件物件を被上告人に返還する意図の下に,転売契約の合意解除による本件物件の取戻しと一体として行われたものでり,支払停止後に義務なくして設定された担保権の目的物を被担保債権の代物弁済に供する行為に等しいというべきである。

 なお,被上告人は,本件物件が転売されたことにより,転売代金債権につき先取特権に基づく物上代位権を取得したものと認められるが,物上代位権の行使には法律上,事実上の制約があり,先取特権者が常に他の債権者に優先して物上代位権を行使し得るものとはいえない上,本件代物弁済の時点では本件物件の売買代金債権の弁済期は到来しておらず,被上告人が現実に転売代金債権につき物上代位権を行使し得る余地はなかったと認められるから,本件代物弁済が他の破産債権者を害する行為に当たるかどうかの判断につき物上代位権の存在が影響を与えるものではない。

 以上によれば,破産会社の本件代物弁済は,否認の対象となるものと解するのが相当である。