破産手続において仮登記が、否認権の対象になるか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成8年10月17日判決
破産者の支払停止の後に、支払停止の事実を知った根抵当権者が、不動産登記法による仮登記仮処分命令を得て、根抵当権設定仮登記をした事案です。
破産管財人が仮登記を否認することができるか?が争われた事案です。
事案の概要
上告人とA社は、平成3年6月14日、信用組合取引契約を締結したが、A社は、平成4年3月25日、自己を引受人とし、上告人の布施支店を支払場所とする金額3,656万5,000円の為替手形を資金不足を理由に不渡りにした。
上告人は、A社が為替手形を不渡りにしたことを知って、同月27日、大阪地方裁判所に仮登記仮処分命令の申請をし、その決定を得て、同年4月2日に根抵当権設定仮登記に及んだ。
A社は、同月24日、債権者から破産の申立てを受け、同年5月14日、大阪地方裁判所で破産宣告を受けた。
最高裁の判断
最高裁は、以下のとおり、仮登記が否認の対象となると判断しました。
仮登記は、それ自体で対抗要件を充足させるものではないが、本登記の際の順位を保全し、破産財団に対してもその効力を有するものであるから、仮登記も対抗要件を充足させる行為に準ずるものとして旧破産法74条1項の否認の対象となるものと解すべきである。
破産者の支払停止の後に、これを知った根抵当権者が不動産登記法による仮登記仮処分命令を得て根抵当権設定仮登記をした場合には、破産管財人は旧破産法74条1項によって当該行為を否認することができるものと解するのが相当である。
権利の変動について対抗要件を充足させる行為は、破産者の行為又はこれと同視すべきものに限り否認し得るものである。仮登記仮処分命令を得てする仮登記は、仮登記権利者が単独で申請し、仮登記義務者は関与しないのであるが、その効力において共同申請による仮登記と何ら異なるところはなく、否認権行使の対象とするにつき両者を区別して扱う合理的な理由はないこと、実際上も、仮登記仮処分命令は、仮登記義務者の処分意思が明確に認められる文書等が存するときに発令されるのが通例であることなどにかんがみると、仮登記仮処分命令に基づく仮登記も、破産者の行為があった場合と同視し、これに準じて否認することができるものと解するのが相当であるからである。
上記の事実関係によれば、上告人は、根抵当権設定契約の日から15日を経過した後に、A社の支払停止を知って、仮登記仮処分命令の申請をし、その命令を得て、本件仮登記をしたものということができるから、被上告人は、旧破産法74条1項によりこれを否認することができるものというべきである。