破産管財人の報酬と源泉徴収義務


破産管財人の報酬について、破産管財人に源泉徴収義務があるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成23年1月14日判決

 破産管財人としての報酬の支払について、破産管財人である弁護士自らが、源泉徴収義務を負うのか?が問題になった事案です(破産手続における一般の財団債権と租税債権③も参照)。

事案の概要

 破産会社は、平成11年9月16日、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、弁護士である上告人が破産管財人に選任された。

 大阪地方裁判所は、平成12年6月29日、上告人の報酬を3,000万円とする旨決定し、上告人は、同年7月3日、上記報酬の支払をした(①)。

 上告人は、平成12年8月30日、破産会社の元従業員ら270名を債権者とする退職金の債権に対し、合計5億9,415万2,808円の配当をした(②)。なお、上記元従業員らは、いずれも平成11年9月16日をもって破産会社を退職していた。

 大阪地方裁判所は、平成13年3月21日、上告人の報酬を5,000万円とする旨決定し、上告人は、同月28日、上記報酬の支払をした(③)。

 住吉税務署長は、平成15年10月23日付けで、上告人に対し、次のとおりの源泉所得税の納税の告知及び不納付加算税の賦課決定をした。

 (1)上記①の支払に係る平成12年7月分の源泉所得税590万円の納税の告知及び不納付加算税59万円の賦課決定

 (2)上記②の配当に係る平成12年8月分の源泉所得税2,013万7,500円の納税の告知及び不納付加算税201万3,000円の賦課決定

 (3)上記③の支払に係る平成13年3月分の源泉所得税990万円の納税の告知及び不納付加算税99万円の賦課決定

 住吉税務署長は、平成15年10月28日付けで、上告人に対し、本件各納税告知に係る源泉所得税及び本件各賦課決定に係る不納付加算税並びに延滞税について交付要求をした。

 上告人において、主位的に、上告人の被上告人に対する上記源泉所得税及び不納付加算税の納税義務が存在しないことの確認を求めるとともに、予備的に、被上告人の上告人に対する上記源泉所得税及び不納付加算税の債権が財団債権でないことの確認を求めた。

最高裁の判断

 最高裁は、管財人が自らの管財人報酬について、源泉徴収義務があると判断しました。

 弁護士である破産管財人が支払を受ける報酬は、所得税法204条1項2号にいう弁護士の業務に関する報酬に該当するものというべきところ、同項の規定が同号所定の報酬の支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのは、当該報酬の支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって、徴税上特別の便宜を有し、能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである。

 破産管財人の報酬は、旧破産法47条3号にいう「破産財団ノ管理,換価及配当ニ関スル費用」に含まれ、破産財団を責任財産として、破産管財人が、自ら行った管財業務の対価として、自らその支払をしてこれを受けるのであるから、弁護士である破産管財人は、その報酬につき、所得税法204条1項にいう「支払をする者」に当たり、同項2号の規定に基づき、自らの報酬の支払の際にその報酬について所得税を徴収し、これを国に納付する義務を負うと解するのが相当である。

 破産管財人の報酬は、破産手続の遂行のために必要な費用であり、それ自体が破産財団の管理の上で当然支出を要する経費に属するものであるから、その支払の際に破産管財人が控除した源泉所得税の納付義務は、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当である。したがって、弁護士である破産管財人の報酬に係る源泉所得税の債権は、旧破産法47条2号ただし書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」として、財団債権に当たるというべきである。

 不納付加算税の債権も、本税である源泉所得税の債権に附帯して生ずるものであるから、旧破産法の下において、財団債権に当たると解される。

 所得税法199条の規定が、退職手当等の支払をする者に所得税の源泉徴収義務を課しているのも、退職手当等の支払をする者がこれを受ける者と特に密接な関係にあって、徴税上特別の便宜を有し、能率を挙げ得る点を考慮したことによるものである。

 破産管財人は、破産手続を適正かつ公平に遂行するために、破産者から独立した地位を与えられて、法令上定められた職務の遂行に当たる者であり、破産者が雇用していた労働者との間において、破産宣告前の雇用関係に関し直接の債権債務関係に立つものではなく、破産債権である上記雇用関係に基づく退職手当等の債権に対して配当をする場合も、これを破産手続上の職務の遂行として行うのであるから、このような破産管財人と上記労働者との間に、使用者と労働者との関係に準ずるような特に密接な関係があるということはできない。また、破産管財人は、破産財団の管理処分権を破産者から承継するが(旧破産法7条)、破産宣告前の雇用関係に基づく退職手当等の支払に関し、その支払の際に所得税の源泉徴収をすべき者としての地位を破産者から当然に承継すると解すべき法令上の根拠は存しない。

 破産管財人は、上記退職手当等につき、所得税法199条にいう「支払をする者」に含まれず、破産債権である上記退職手当等の債権に対する配当の際にその退職手当等について所得税を徴収し、これを国に納付する義務を負うものではないと解するのが相当である。


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