破産手続における否認権と事業譲渡の関係を取り上げます。
事業譲渡と否認権
債務者の事業について、破産申立前に、事業譲渡が行われた場合は、否認権との関係が問題となります。
破産申立前に事業譲渡が行われた場合、事業譲渡の対価の相当性を検討することで、詐害行為否認の対象になるか?を判断します。
詐害行為否認の検討
債務超過状態にあった会社が、破産申立直前に第三者と事業譲渡契約を締結し、事業譲渡を行うのは、破産者が破産債権者を害することを知ってした行為に該当し、否認権行使の対象になる可能性が高いといえます。
具体的には、破産法160条1項1号の要件を充足するか?を検討します。すなわち、①債権者を害する行為(詐害行為)の有無、②破産者の詐害意思の検討が必要です。
破産申立前の事業譲渡は、秘密裏に行われ、入札等の手続きを経ずに、譲渡先や譲渡価格が決められていることがほとんどです。破産管財人は、事業譲渡の対価の相当性について、公認会計士と連携するなどして検討する必要があります。
受益者の主観的要件
詐害行為否認は、受益者が行為の当時、破産債権者を害する事実を知らなかったときは、否認権を行使できません。この要件は、受益者側が立証責任を負っています。
当然、破産管財人は、否認権を行使できるか?の検討に際して、受益者の主観的要件についても検討しなければなりません。
相当対価を得てした財産処分行為の否認
事業譲渡に際して、破産者が一定の対価を取得している場合は、破産法161条1項の要件を検討する必要があります。具体的には、以下の3つを検討することになります。
事業譲渡に際し、破産者が対価を得ている場合の検討事項
①財産処分行為と相当の対価性の有無
②隠匿等の処分のおそれを現に生じさせるものかどうか?
③相手方が行為当時、破産者の隠匿等の処分意思を知ってたかどうか?
否認権行使の結果
否認権行使の対象になるとしても、事業譲渡による各種契約関係の承継等をすべて覆すのは、現実的に、困難なことが考えられます。このような場合は、価額償還請求を検討することになります。