小規模個人再生手続における住特条項に関する最高裁決定を紹介します。
最高裁平成29年12月19日決定
小規模個人再生手続で住特条項を定めた再生計画について、民事再生法202条2項4号(再生計画の決議方法が不正の方法によって成立するに至った)の不認可事由の有無が、争われた事案です。
再生債務者が、存在しない本件貸付債権を意図的に、債権者一覧表に記載して、個人再生手続を進めたのではないか?が問題になりました。
なお、住特条項そのものが問題になったわけではありません。
事案の概要
税理士であるXは、平成25年2月、顧客であるYから債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起された。
Xは、平成25年12月、所有する土地建物に、実弟AのXに対する平成11年10月10日付金銭消費貸借契約に基づく2,000万円の貸付債権を被担保債権とする抵当権を設定した旨の仮登記を経由した。Xは、平成28年8月26日、本件仮登記の抹消登記を経由した。
なお、当該土地建物には、住宅ローン債権を被担保債権とする順位1番の抵当権が設定され、その旨の登記が経由されていた。
平成28年4月、上記訴訟の控訴審で、Xに対しYに1,160万円と遅延損害金の支払いを命じる判決が言い渡され、同判決は確定した。
Xは、平成28年9月7日、東京地裁に再生手続開始申立てをし、同月20日、再生手続開始決定を受けた。申立てに当たり、Xが提出した債権者一覧表は、本件住宅ローン債権以外に、本件貸付債権と本件損害賠償債権を含め再生債権の額の合計は約4,027万円となる債権が記載されていた。
Yは、債権届出期間内に、再生債権の額を約1,345万円として本件損害賠償債権の届出をした。本件貸付債権と本件損害賠償債権について一般異議申述期間を経過するまでに異議は述べられず、AとYは、届出債権の額に応じてそれぞれ議決権を行使することができるとされた。
本件再生手続における議決権行使者は、Y、Aを含む10名で、議決権者の議決権の総額は約3,705万円であった。
Xは、平成28年12月19日、再生裁判所に、本件住宅ローン債権について住特条項を定めた上、本件住宅ローン債権以外の再生債権について90%の免除を受け、分割して返済する再生計画案を提出した。再生裁判所は、平成28年12月27日、本件再生計画案について付議決定を行い、Yのみが再生計画案に同意しない旨の回答をした。
本件再生計画案は、同意しない旨を回答した議決権者の数が議決権者総数の半数に満たず、かつ、議決権の額が議決権者の議決権の総額の2分の1を超えないとして可決されたものとみなされ、再生裁判所は、平成29年1月19日、再生計画を認可した。Yが認可決定に対して即時抗告を行った。
抗告審において、Xは本件貸金債権について、裏付けとなる資料の提出を求められたが、借用書や金銭の交付を裏付ける客観的な資料は提出しなかった。
最高裁の判断
最高裁は、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの審理を尽くさせるため、原々審に差し戻した原審の判断を是認しています。
民事再生法が、小規模個人再生において、再生計画案が可決された場合になお、再生裁判所の認可決定を要するとし、再生裁判所は一定の場合に不認可決定をすることとした趣旨は、再生計画が、再生債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図るという目的を達成するのに適しているかどうかを、再生裁判所に改めて審査させ、後見的な見地から少数債権者の保護を図り、ひいては再生債権者の一般の利益を保護しようとするものと解される。
小規模個人再生における再生計画案が住特条項を定めた場合に適用される民事再生法202条2項4号(再生計画の決議方法が不正の方法によって成立するに至った)の不認可事由には、議決権を行使した再生債権者が詐欺、強迫又は不正な利益供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてなされた場合も含まれる。
小規模個人再生において、再生債権の届出がされ、一般異議申述期間又は特別異議申述期間において異議が述べられなかったとしても、住特条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては、当該再生債権の存否を含め、当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができる。
Xは、本件再生手続開始申立てに当たり、債権者一覧表に本件貸付債権を記載して提出し、本件貸付債権は、再生債権の届出をしたとみなされた。しかしながら、本件貸付債権は、Xが本件再生手続開始申立ての16年以上前に実弟であるAから2,000万円の貸付を受けたことにより発生したというもので、本件仮登記が経由されたのは、Yから損賠賠償請求訴訟を提起された後で、貸付時から14年以上を経過した平成25年12月であって、Xは原審において本件貸付債権の裏付となる資料の提出を求められながら、借用証書や金銭の交付を裏付ける客観的な資料を提出していないなど、本件貸付債権が実際には存在しないことをうかがわせる事情がある。
本件貸付債権は一般異議申述期間に異議が述べられなかったので、Aは議決権総額の2分の1を超える議決権を行使することができることになり、本件再生計画案が可決されるに至っている。
以上の事情によれば、Xが実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどして本件再生計画案を可決に至らしめた疑いがあるというべきであって、Xが再生債務者として債権者に対し公平かつ誠実に再生手続を追行する義務を負う立場にあることに照らすと、本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた疑いがあるといえる。本件再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かについて、本件貸付債権の存否を含めた調査は尽くされていない。
したがって、本件再生計画案を認可した原々審の判断は不当であるとして原々決定を取り消し、審理を尽くさせるために原々審に差し戻した原審の判断は是認することができる。