差押債務者への弁済後の債権者への新たな弁済と否認権


破産手続における否認権について判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成29年12月19日判決

 第三債務者が、差押債務者に対する弁済後に、差押債権者に対して弁済を行った事案です。行った新たな弁済が、否認権の対象になるかどうか?が争われた事案です。

事案の概要

 Xは、Aに対する貸金請求を認容する確定判決を債務名義として、AのB社に対する給料債権の差押を申立て、平成22年4月、債権差押命令がB社に送達された。しかし、B社はその後もAに給料債権の全額を支払った。

 Xは、平成25年10月頃、Aの給料債権のうち、上記差押命令によって、差し押さえられた部分の支払を求める支払督促を申立てた。B社は督促異議の申立てを行い、訴訟に移行したが、B社は同月から平成26年1月までAに支払う給料から26万円を控除してXに差押部分の弁済として支払った(本件支払1)。

 訴訟において、平成26年2月、B社がXに差押部分の弁済として141万8,905円を支払うことなどを内容とする和解が成立した。B社は翌3月にXに和解に基づく支払を行った(本件支払2)。

 Aは、平成26年12月、破産手続開始決定を受け、破産管財人が選任された。破産管財人は、本件支払1と2について、破産法162条1項1号イに基づき否認権を行使し、Xに167万8,905円と法定利息の支払を求めた。

原審の判断

 原審は、本件支払1と2ともに、否認権の対象になると判断しました。

最高裁の判断

 最高裁は、本件支払2は、否認権の対象にならないと判断しました。

 破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」とは、破産者の意思に基づく行為のみならず、執行力のある債務名義に基づいてされた行為であっても、破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものであれば、これに含まれると解すべきである。債権差押命令の送達を受けた第三債務者が、差押債権につき差押債務者に対して弁済をし、これを差押債権者に対して対抗することができないため(民法481条1項参照)に差押債権者に対して更に弁済をした後、差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合、前者の弁済により差押債権は既に消滅しているから、後者の弁済は、差押債務者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものとはいえず、破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に当たらない。

 したがって、上記の場合、第三債務者が差押債権者に対してした弁済は、破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないと解するのが相当である。本件では、B社は、差押命令の送達後も、Aに給料債権のうち、本件支払1に係る部分を除いた全額の弁済を行い、Aの給料債権が消滅した後に、さらに差押債権者であるXに本件支払2を行ったので、本件支払2は、破産法162条1項の否認権の対象にはならない。 


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