破産手続における無償行為否認に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁昭和62年7月3日判決

同族会社の代表者で実質的な経営者でもある破産者が当該会社のためにした保証又は担保の供与が無償行為否認権の対象になるかどうかが争われました。

事案の概要

 A社は,いわゆる同族会社であるが,昭和51年6月ころ,資金繰りが悪化し,原料購入先である上告人に対し,代金の支払猶予を求めた。

 上告人は,同年9月3日,A社に対し,向う6か月間に満期が到来する金額合計3673万3060円の支払手形の書換えのため上告人において立替決済をする旨約するとともに,A社の代表取締役で実質的な経営者でもある破産者Bとの間で,同人がA社の上告人に対する取引上の一切の債務につき連帯保証をし,かつ,同人所有の本件不動産につき上告人のため極度額4000万円の根抵当権を設定する旨の合意をし,その旨登記を経由した。

 破産者Bは,本件保証及び本件根抵当権の設定に際し,保証料の取得その他破産財団の増加をもたらすような経済的利益を受けなかった。

 上告人が立替決済の一部の履行をしたところ,破産者Bは,同年12月21日破産の申立をされ,昭和52年3月14日京都地方裁判所において破産宣告を受け,被上告人が破産管財人に選任された。

 その後,本件不動産について任意競売手続が開始され,同裁判所により,上告人に対し本件根抵当権に基づき2919万5635円を配当する旨の配当表が作成されたため,被上告人は,根抵当権の設定が旧破産法72条5号にいう無償行為に当たるとして否認権を行使し,配当期日において異議を申し立てるとともに,本訴において同号に基づき本件保証をも否認した。

最高裁の判断

 破産者が義務なくして他人のためにした保証若しくは抵当権設定等の担保の供与は,それが債権者の主たる債務者に対する出捐の直接的な原因をなす場合であつても,破産者がその対価として経済的利益を受けない限り,旧破産法72条5号にいう無償行為に当たるものと解すべきであり,主たる債務者がいわゆる同族会社であり,破産者がその代表者で実質的な経営者でもあるときにも妥当するものというべきである。

 同号にいう無償行為として否認される根拠は,その対象たる破産者の行為が対価を伴わないものであつて破産債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため,破産者及び受益者の主観を顧慮することなく,専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあるから,その無償性は,専ら破産者について決すれば足り,受益者の立場において無償であるか否かは問わないばかりでなく,破産者の保証等の行為とこれにより利益を受けた債権者の出捐との間には事実上の関係があるにすぎず,また,破産者が取得することのあるべき求償権も当然には行為の対価としての経済的利益に当たるとはいえないところ,いわゆる同族会社の代表者で実質的な経営者でもある破産者が会社のため右行為をした場合であつても,当該破産手続は会社とは別個の破産者個人に対する総債権者の満足のためその総財産の管理換価を目的として行われるものであることにかんがみると,その一事をもって,叙上の点を別異に解すべき合理的根拠とすることはできないからである。