破産財団からの放棄と別除権


破産財団から放棄された財産を目的とする別除権に関する最高裁決定を紹介します。

最高裁平成16年10月1日決定

 破産財団から放棄された財産を目的とする別除権(破産法65条)について、別除権者が、別除権放棄の意思表示を誰に対して行うのか?が問題になった事案です。つまり、破産管財人と破産者のどちらに意思表示を行うのか?という問題です。

事案の概要

 破産会社は、平成14年11月12日、大阪地方裁判所において破産宣告を受け、破産管財人として抗告人が選任された。

 相手方は、破産会社に対する債権を担保するため、破産会社所有の原々決定別紙物件目録記載の各不動産に第2順位の根抵当権の設定を受けていた。相手方は、平成14年12月10日、破産裁判所に対し、本件不動産を別除権の目的とし、債権の種類を将来の求償権、債権額を6,435万2,075円とする破産債権届出書を提出した。その後、相手方は、届出に係る債権の種類を求償権に、債権額を5,865万5,938円に変更する旨の破産債権変更上申書を提出した。

 平成15年5月1日、本件不動産につき、第1順位の根抵当権者の申立てにより、競売開始決定がされた。抗告人は、本件不動産を破産財団から放棄することとしたが、放棄するのに先立ち、同年6月26日付けの書面により、相手方を含む別除権者に対し、本件不動産については、任意売却に別除権者の協力が得られず、被担保債権の額がその時価を大幅に超過しているため、破産財団から放棄することとしたこと、本件の破産手続において配当に加入するためには、別除権の放棄が必要となることを通知した。そして、同年7月8日、破産裁判所の許可を得て、本件不動産を破産財団から放棄した。その際、抗告人は、本件不動産を破産会社の破産宣告当時の代表取締役であったAに引き渡すことはしなかった。

 抗告人は、平成15年8月27日、破産裁判所に最後配当の配当表を提出した。この配当表には、相手方の前記債権は記載されていなかった。抗告人は、同年9月2日に最後配当についての破産裁判所の許可を得た上で、同月25日に配当の公告をした。また、破産裁判所は、同月4日、最後配当に関する除斥期間を同年10月10日までと定めた。

 相手方は、Aに対し、平成15年10月5日到達の書面により、本件不動産を目的とする別除権を放棄する旨の意思表示をした。また、そのころ、抗告人に対し、上記の意思表示をした旨の通知をした。そして、相手方の前記根抵当権につき、同月9日受付による根抵当権抹消登記がされた。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、破産財団から放棄された財産を目的とする別除権者が、別除権放棄の意思表示を行う相手方は、破産者であると判断しました。

 破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき別除権者がその放棄の意思表示をすべき相手方は、破産者が株式会社である場合を含め、破産者である。

 株式会社が破産宣告を受けて解散した場合、破産宣告当時の代表取締役は、当然に清算人となるものではなく、会社財産についての管理処分権限を失うと解すべきものであって、その後に別除権の目的とされた財産が破産財団から放棄されたとしても、当該財産につき旧取締役が管理処分権限を有すると解すべき理由はない。

 したがって、別除権放棄の意思表示を受領し、その抹消登記手続をすることなどの管理処分行為は、旧商法417条1項ただし書の規定による清算人又は同条2項の規定によって選任される清算人により行われるべきものである。破産者が株式会社である場合において、破産財団から放棄された財産を目的とする別除権につき、別除権者が旧取締役に対してした別除権放棄の意思表示は、これを有効とみるべき特段の事情の存しない限り、無効と解するのが相当である。


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