否認権のための保全処分(破産の手続き)


破産手続における否認権のための保全処分を取上げます。

否認権のための保全処分

 債務者が破産手続開始決定前に自己の財産を第三者に譲渡している等、破産手続開始決定後に、破産管財人が否認権を行使することが予想される場合があります(破産手続における否認権について参照)。

 このような場合、否認権の行使による財産の引渡請求権を保全するために、第三者による当該財産の処分を禁止して、否認権行使の相手方を固定する必要がある場合があります。また、否認対象行為が債務の弁済である場合は、第三者に対する金銭債権を保全するために、第三者の責任財産を保全する必要が生じるかもしれません。

 しかし、破産手続開始決定前は、破産管財人は選任されておらず、否認権自体が発生していません。そのため、否認権を被保全権利として、民事保全の申立てをすることができません。

 そこで、破産法は、否認権のための保全処分(破産法171条)という制度を設けています。

保全処分の発令手続

 利害関係人の申立て又は職権によって発動されます(破産法171条1項)。状況に応じて、担保を立てる必要があります(破産法171条2項)。

 申立てができる利害関係人は、保全管理人が選任されている場合は保全管理人が該当します(破産法171条1項)。保全管理人が選任(破産法97条1項)されていない場合は、債権者又は債務者が該当します。

 保全処分は、破産手続開始申立てがあった時から破産手続開始決定までの間、発令することができます。破産手続開始決定後は、管財人が民事保全の申立てを行います。

 保全処分が発令されるには、①否認権が成立すること、②保全の必要性があることが要件です。

保全処分の続行と担保

 否認権のための保全処分がされている場合、破産管財人は、破産手続開始決定後に、保全処分の手続を続行するかどうかを検討します(破産法172条1項)。手続を続行する場合は、破産手続開始決定後1か月以内に裁判所にその旨を届出ます。1か月以内に続行されない場合、保全処分は失効します(破産法172条2項)。

 保全処分が続行される場合、担保が破産財団に帰属する財産でない場合、担保を破産財団に帰属させるために、管財人は、担保の変換を申立てをし、裁判所は担保の変換の決定をしなければなりません(破産法172条3項)。


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