破産手続における暗号資産(仮想通貨)の取扱いを判断した裁判例を紹介します。
東京地裁平成30年1月31日判決
暗号資産(仮想通貨)の交換所が破産した破産手続において、ユーザーの仮想通貨の返還請求権の取扱いが問題になった事案です。
暗号資産の法定性質、破産手続における取扱いが問題となりました。
事案の概要
破産会社は、仮想通貨交換事業等を業とする株式会社であり、本件取引所を運営し、ビットコイン又は通貨(ビットコイン以外の日本円や米ドル等の各国の通貨)の預かり業務や利用者間のビットコインの売買や仲介業務を行っていた。
破産会社は、東京地方裁判所に対し、破産手続開始の申立てを行い、同裁判所は、平成26年4月24日、破産会社について破産手続開始決定をした。
原告は、平成27年5月28日、本件破産事件において、ビットコインの返還請求権及びこれに附帯する遅延損害金請求権として、破産会社に対する各破産債権を届け出た。
破産管財人である被告は、本件届出債権に対し、債権認否一覧表「認めない債権額」欄及び「認める債権額」欄記載のとおりそれぞれ認否をした。
原告は、平成28年6月24日、東京地方裁判所に対し、本件届出債権について破産債権査定の申立てを行い、同裁判所は、平成29年3月2日、本件届出債権について別紙債権認否一覧表「認める債権額」欄記載の額とそれぞれ査定する旨の決定をした。
原告は本件届出債権の全てを有しており、その額は債権認否一覧表記載の各ビットコインを相場に従ってそれぞれ円に換算した金額及びこれに対する平成26年2月11日から本件破産開始決定がされた日の前日である同年4月23日までの間の商事法定利率年6分の割合による遅延損害金となると主張している。
裁判所の判断
ビットコインは、仮想通貨であり、物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入、売却及び交換を行うことができる財産的価値を有する電磁的記録であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるものである。
ビットコイン(電磁的記録)を有する者の権利の法的性質については、必ずしも明らかではないが、少なくともビットコインを仮想通貨として認める場合においては、通貨類似の取扱をすることを求める債権(破産法103条2項1号イの「金銭の支払を目的としない債権」)としての側面を有するものと解され、同債権は、ビットコイン(電磁的記録)が電子情報処理組織を用いて移転したときは、その性質上、一緒に移転するものと解される。原告は、原告が破産会社に対してビットコインの返還請求権を有するとして、破産債権の届出をしたものであるが、ビットコイン自体は電磁的記録であって返還をすることはできないから、原告は、コイン債権について、破産法103条2項1号イの「金銭の支払を目的としない債権」として、破産手続開始時における評価額をもって、破産債権として届け出たものと解される。原告が主張するように破産会社の代表者が原告のビットコインを引出して喪失させたのであれば、既にビットコインは他に移転し、同時にコイン債権も他に移転したことになるから、破産手続開始時において、原告は破産会社に対し、コイン債権を有しなかったことになる。本件届出債権は、原告が破産会社に対してコイン債権を有することを前提とするものと解されるところ、その前提を欠くことになるから、原告の上記主張は、結論を左右するものとはいえない。
利用者は、取引開始時にユーザーネーム及びメールアドレスを登録し、ビットコインを管理するためのアカウントを取得し、アカウントを通じてビットコイン又は通貨を保有してビットコイン又は通貨の取引を行うという仕組みがとられていたこと、破産会社は、本件取引所の利用者のアカウント情報が記録されたデータベースを保有しており、被告は、本件破産事件における届出破産債権の認否については、届出破産債権と上記データベースを照合し、データベースに記録されたビットコイン及び通貨の残高の限度で届出破産債権を認めたこと、本件取引所においては、ユーザーネーム及びメールアドレスについて他の利用者が使用しているものと同一のものは登録できない仕組みとなっており、上記データベースにおいて、特定のユーザーネーム又はメールアドレスでキーワード検索をかければ、当該ユーザーネーム又はメールアドレスを有するアカウントを特定し、当該アカウントのビットコイン及び通貨の残高を確認することができること、被告は、本件破産事件において、届出破産債権の調査に必要となるデータの分析・調査・集計及びその他の機器等の調査をする上で、これらに関する専門家の支援を受ける必要があったため、破産裁判所の許可を得て、専門的知見を有する有限会社AのB及びC合同会社に業務を委託し、届出破産債権の調査についての支援を得たこと、以上の各事実が認められる。これらの事実からすると、破産会社が保有していた上記データベースを検索することにより得られる特定のアカウントのビットコイン残高には基本的に信用性が認められるものであり、これに基づく被告の本件破産事件における届出破産債権の認否の内容についても信用性が認められるものということができる。