離婚に伴う財産分与が、破産手続において問題になることがあります。否認権との関係を取上げます。
財産分与と否認権
離婚に伴う財産分与請求権について、取戻権との関係を取上げました。
詳細は、以下の記事参照
取戻権を行使する前提として、そもそも、財産分与に相当性があることが前提になります。
民法768条3項の趣旨に反して、不相当に過大で、財産分与に仮託してなされた財産分与処分であると認められる特段の事情がある場合、財産分与は詐害行為になります。
したがって、財産分与として不相当に過大な部分は、履行されていたとしても、否認権(破産法160条)又は詐害行為取消(民法424条1項)の対象になります。
最高裁平成12年3月9日判決
離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意が、債権者に対する詐害行為になるか?が争われた事案です。
事案の概要
被上告人は、Bに対し、平成3年5月15日に貸し付けた貸金債権を有し、これにつき、Bから被上告人に6,005万9,714円及び内金5,928万1,396円に対する平成4年2月14日から支払済みまで年14パーセントの割合による金員を支払うべき旨の確定判決を得ている。
Bは、訴外会社の取締役であったところ、多額の負債を抱えて借入金の利息の支払にも窮し、平成4年1月末、訴外会社の取締役を退任し、収入が途絶え、無資力となった。
上告人とBは、平成2年10月ころから同居し、平成3年10月5日、婚姻の届出をしたが、Bは、働かずに飲酒しては上告人に暴力を振るうようになり、平成6年6月1日、上告人と協議離婚した。
上告人とBは、他の債権者を害することを知りながら、平成6年6月20日、Bが上告人に対し、生活費補助として同月以降上告人が再婚するまで毎月10万円を支払うこと及び離婚に伴う慰謝料として2,000万円を支払うことを約し、これに基づき、執行認諾文言付きの慰謝料支払等公正証書が作成された。
最高裁の判断
最高裁は、離婚に伴う財産分与が詐害行為に該当するか?について、一般論として次のように判断しています。
離婚に伴う財産分与は、民法768条3項の規定の趣旨に反して不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とならない。このことは、財産分与として金銭の定期給与をする旨の合意をする場合であっても、同様と解される。
離婚に伴う財産分与として金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、その限度において詐害行為として取り消されるべきものと解するのが相当である。
離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、配偶者の一方が、その有責行為及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを理由として発生した損害賠償債務の存在を確認し、賠償額を確定してその支払を約する行為であって、新たに創設的に債務を負担するものとはいえないから、詐害行為とはならない。
当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、その合意のうち損害賠償債務の額を超えた部分については、慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、詐欺行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。
その上で、本件の財産分与について、最高裁は、詐害行為に当たると判断しています。