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破産手続における否認権と退職金の払込


破産手続における否認権の行使に関する最高裁判決を紹介します。

最高裁平成2年7月19日判決

 公務員である破産者に代わって、地方公共団体が共済組合に対し、貸付金を返済するために、退職金を払い込むことが、否認権の対象になるか?が争われた事案です。

事案の概要

 石川県立高等学校の教諭であったAは、昭和60年6月3日、金沢地方裁判所に自己破産の申立をし、翌4日に退職した。

 被上告人は、その組合員であったAに対し、退職当時、合計682万2,672円の貸付金債権を有していたので、Aの給与支給機関は、同月11日、Aの退職手当420万7,236円の支給に当たり、地方公務員等共済組合法に基づき、退職手当全額をAに代わって貸付金債務の弁済として被上告人に払い込んだ。

 本件払込時において、被上告人はAが破産申立をした事実を知っていた。

 金沢地方裁判所は、同年10月3日、Aの破産宣告をし、上告人が破産管財人に選任された。上告人は、旧破産法72条2号により、退職手当の4分の1に相当する105万1,809円の限度で本件払込による弁済行為を否認し、被上告人にその支払を求めた。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、退職金の払込は、否認権の対象になると判断しました。

 地方公務員共済組合の組合員(組合員であった者を含む。)の給与支給機関が、給与(退職手当を含む。)を支給する際、地共法に基づき、その組合員の給与から貸付金の金額に相当する金額を控除して、これを組合員に代わって組合に払い込んだ行為は、組合員が破産宣告を受けた場合において、旧破産法72条2号の否認の対象となるものと解するのが相当である。

 地共法の規定は、組合員から貸付金等を確実に回収し、もって組合の財源を確保する目的で設けられたものであり、給与の直接払の原則及び全額払の原則との関係を考慮して、払込方法を法定したものと解される。そして、払込が他の債権に対して優先する旨の規定を欠くことと、「組合員に代わって」組合に払い込まなければならないとしている地共法の文言に照らしてみれば、この払込は、組合に対する組合員の債務の弁済を代行するものにほかならず、組合において、破産手続上、他の一般破産債権に優先して組合員に対する貸付金債権の弁済を受け得ることを同項が規定したものと解することはできないからである。払込が地共法の規定の効力によってされるものであることも、その解釈を妨げるものではない。


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