仮執行宣言に対する強制執行停止と破産手続


仮執行宣言に対する強制執行停止と破産手続の関係を判断した最高裁決定を紹介します。

最高裁平成13年12月13日決定

 仮執行宣言付判決に対する上訴に伴い担保を立てさせて強制執行の停止がなされた後に、債務者について破産手続開始決定がなされた事案です。債務者について破産手続開始決定がなされたことが、担保事由の消滅に当たるか?が問題になりました。

事案の概要

 仮執行宣言付判決に基づき債権差押え及び転付命令が発せられ、同判決に対する控訴の提起に伴い担保を立てさせて強制執行の停止並びに上記差押え及び転付命令の取消しの裁判がされた後、担保提供者である債務者が破産宣告を受けたところ、その破産管財人である抗告人が、担保の事由が消滅したとして、担保取消しを求めた。

最高裁の判断

 最高裁は、破産手続開始決定は、担保消滅事由に当たらないと判断しました。

 民訴法400条2項の準用する同法79条1項にいう「担保の事由が消滅したこと」とは、担保供与の必要性が消滅したこと、すなわち、被担保債権が発生しないこと又はその発生の可能性がなくなったことをいい、上訴に伴う執行停止の場合については、その後の訴訟手続において担保提供者の勝訴判決が確定した場合又はそれと同視すべき場合をいう。

 旧破産法70条1項本文は、破産債権に基づき破産財団に属する財産に対してされた強制執行等は破産財団に対してはその効力を失う旨を規定するところ、破産宣告当時既に強制執行が終了している場合は、同項本文の適用はないから、既に終了した強制執行は、破産宣告により効力を失うことはない。仮執行宣言は、その宣言又は本案判決を変更する判決の言渡しにより、変更の限度においてその効力を失うものではあるが(民訴法260条1項)、仮執行宣言付判決に基づく強制執行は、終局的満足の段階にまで至る点において確定判決に基づく強制執行と異なるところはないから、破産宣告当時既に終了している仮執行は、破産宣告により効力を失うことはないと解すべきである。

 仮執行宣言付判決に係る事件が上訴審に係属中に債務者が破産宣告を受けた場合において、仮執行が破産宣告当時いまだ終了していないときは、旧破産法70条1項本文により仮執行はその効力を失い、債権者は破産手続においてのみ債権を行使すべきことになるが、他方、仮執行が破産宣告当時既に終了していれば、破産宣告によってその効力が失われることはない。よって、仮執行宣言付判決に対して上訴に伴う強制執行の停止又は既にした執行処分の取消しがされた後、債務者が破産宣告を受けた場合には、その強制執行停止等がされなかったとしても仮執行が破産宣告時までに終了していなかったとの事情がない限り、債権者は、強制執行停止等により損害を被る可能性がある。

 したがって、仮執行宣言付判決に対する上訴に伴い担保を立てさせて強制執行停止等がされた場合において、担保提供者が破産宣告を受けたとしても、その一事をもって、「担保の事由が消滅したこと」に該当するということはできないと解するのが相当である。

 本件ついてこれを見ると、仮に本件強制執行停止及び執行取消決定がなかったとしても、債務者の破産宣告当時相手方らの強制執行が終了していなかったものということはできないから、相手方らは、本件強制執行停止及び執行取消決定により損害を被る可能性があるということができる。しかも、本件仮執行宣言付判決に係る相手方らの破産債権は、債権調査期日において破産管財人及び破産債権者並びに債務者の異議なく確定し、確定債権について債権表に記載され、債権表の記載は勝訴の確定判決と同一の効力を有するのであるから、本件仮執行宣言付判決の結論は是認され、担保提供者の敗訴判決が確定した場合と同視することができる。

 したがって、本件強制執行停止及び執行取消しのため立てた本件担保の事由が消滅したということはできない。


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