交通事故の被害者が破産した場合の問題を取上げました。では、交通事故の加害者が破産した場合、被害者は賠償してもらえるのでしょうか?
交通事故の加害者が破産した場合の問題
交通事故の加害者が任意保険に加入している場合、保険給付請求権は、被保険者である加害者に帰属します。加害者が破産すると、保険給付請求権は、破産者の破産財団に帰属します(破産法34条1項)。
破産財団は、総債権者の配当原資です。したがって、被害者は他の債権者と同じように、債権届出を行い、配当によって按分弁済を受けることになりそうです。
しかし、自動車保険の対人・対物賠償保険は責任保険であって、被害者の損害を填補するために被保険者に保険給付を行うことからすると、保険給付請求権を総債権者の配当原資とするのは、被害者保護にそぐわないことになります。
被害者の先取特権
保険法は、責任保険契約に基づく保険給付請求権について、被害者に特別の先取特権を認めています(保険法22条1項)。
破産手続において、特別の先取特権は別除権(破産法2条9項)として扱われます。したがって、被害者は、他の債権者に優先して責任保険契約に基づく保険給付から弁済を受けることが可能です(破産法65条1項)。
実務上は、被害者に特別の先取特権があることを前提に、保険会社と示談交渉をすることになるでしょう。もっとも、被保険者が保険給付請求権を行使できるのは、被害者に自ら弁済した額又は被害者の承諾額に限定されています。破産管財人は、保険会社に指図し、被害者に対して直接保険金を支払ってもらうことができます。
保険会社が任意の弁済を行わない場合は、先取特権を実行することになります。手続きには、担保権の存在を証する文書が必要になります。そのため、加害者である被保険者に対して損害賠償請求権を有することを立証する必要があります。その証明の程度は、高度の蓋然性の立証が必要と解されています。
被害者の直接請求権
自賠責保険については、自賠法16条1項により、被害者の直接請求権が認められています。また、任意保険についても通常、約款で被保険者が破産した場合は、被害者の直接請求権が認められています。
これらの直接請求権を行使することで、被害者は保険会社から直接、保険給付を受けることができます。被害者としては、上記の特別の先取特権を行使しなくてもいいということになります。
加害者が無保険の場合
以上は、加害者が自動車保険に加入している場合です。加害者が自動車保険に加入していない場合は、当然、保険会社から支払を受けることはできません。
加害者に免責許可決定がなされた場合、通常の交通事故は、加害者に故意又は重過失(破産法253条1項3号)は認められません。したがって、加害者は、賠償責任を免れます。つまり、被害者は、加害者から賠償を受けることができません。