交通事故の被害者が破産した場合、加害者に対する損害賠償請求権は、どうなりますか?
破産手続開始決定前の交通事故
交通事故の発生が破産手続開始決定後に生じた場合、損害賠償請求権は、破産者である被害者の自由財産です。したがって、破産手続との関係で問題は生じません。
しかし、交通事故の発生が破産手続開始決定前の場合は、損害賠償請求権が破産財団(破産法34条1項・2項)に帰属するのか?という問題が生じます。
破産手続開始決定により、破産手続開始決定時に破産者が有する一切の財産は、破産財団を形成します(破産法34条1項)。交通事故の損害賠償請求権も金銭債権なので、破産財団を構成することになるはずです。
自賠責法に基づく保険金請求権
交通事故の被害者は、自賠法16条に基づき、自賠責保険会社に対して、自賠責保険金を請求することができます。この請求権は、差押えが禁止されています(自賠法18条)。差押禁止財産は、本来的自由財産です。
ただ、自賠法16条の直接請求権は、被害者の損害賠償請求権の行使を円滑かつ確実にするために損害賠償請求権行使の補助的手段として認められているものです。
したがって、被害者が損害賠償請求権を有することを当然の前提にしているので、損害の費目ごとに破産財団の帰属性を検討する必要があると解されています。
財産的損害
車両の修理代等の物損の損害賠償請求権は、破産財産に帰属します。人損の場合の破産財団の帰属性については、次のように解されています。
治療関係費は、生命・健康の維持回復という被害者の生存を保障し、その再起更正に不可欠なものです。したがって、本来的自由財産又は自由財産拡張の対象になると考えられます。入院雑費や介護費についても治療費と同様です。
※積極損害も参照
休業損害等の逸失利益は、金銭債権なので、破産財団に帰属します。ただし、被害者である破産者の将来の自由財産の減少分を填補するもので、全部又は一部について自由財産の拡張が認められると解されています
※逸失利益も参照
慰謝料
慰謝料は、被害者が受けた精神的苦痛を金銭として加害者に請求するものです。
※慰謝料も参照
慰謝料を請求するかどうかは、被害者の意思に委ねられており、行使上の一身専属権があります。
ただ、判例は行使上の一身専属権を緩やかに解しており、少なくとも金額の確定した慰謝料請求権は、債務の履行を残すのみで行使上の一身専属性はなくなっていると解することができます。一身専属性がなくなった慰謝料請求権は、破産財団に帰属します。
もっとも、慰謝料請求権は、被害者の人格的価値の毀損に対する填補であるので、全てを破産財団に帰属させるのではなく、自由財産の拡張が広く認められるべきと解されています。
また、慰謝料請求権は、金額が確定しても行使上の一身専属性は失われず、破産財団に帰属しないという見解も主張されています。