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自動車の所有権留保と倒産手続


自動車の所有権留保特約が付されている場合、倒産手続において、どのように取扱われるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成22年6月4日判決

 自動車の売買代金の立替払をした者が、販売会社に留保されていた自動車の所有権の移転を受けたが、購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき所有者としての登録を受けていないときに、留保した所有権を別除権として行使できるか?が争われた最高裁判決です。

 最高裁判決は、個人再生手続の事案です。しかしながら、破産手続においても妥当すると考えられます。

事案の概要

 上告人、販売会社及び被上告人は、三者間において、上告人が、販売会社から本件自動車を買い受けるとともに、売買代金から下取車の価格を控除した残額を自己に代わって販売会社に立替払することを被上告人に委託すること、本件自動車の所有権が上告人に対する債権の担保を目的として留保されることなどを内容とする契約を締結し、同契約において、要旨次のとおり合意した。

本件における契約内容

①上告人は、被上告人に対し、本件残代金相当額に手数料額を加算した金員を分割して支払う。

②上告人は、本件自動車の登録名義のいかんを問わず(登録名義が販売会社となっている場合を含む。)、販売会社に留保されている本件自動車の所有権が、被上告人が販売会社に本件残代金を立替払することにより被上告人に移転し、上告人が本件立替金等債務を完済するまで被上告人に留保されることを承諾する。

③上告人は、支払を停止したときは、本件立替金等債務について期限の利益を失う。

④上告人は、期限の利益を失ったときは、被上告人に対する債務の支払のため、直ちに本件自動車を被上告人に引き渡す。

⑤被上告人は、上記エにより引渡しを受けた本件自動車について、その評価額をもって、本件立替金等債務に充当することができる。

 本件契約後に、本件自動車について、所有者を販売会社、使用者を上告人とする新規登録がされた。その後、上告人は本件立替金等債務の支払いを怠り、期限の利益を喪失し、小規模個人再生手続開始決定を受けた。

原審の判断

 被上告人が販売会社に立替払することにより、弁済による代位が生ずる結果、販売会社が本件残代金債権を担保するために留保していた所有権は、販売会社の上告人に対する本件残代金債権と共に法律上当然に被上告人に移転するのであり、本件三者契約はそのことを確認したものであって、被上告人が立替払によって取得した上記の留保所有権を主張するについては、販売会社において対抗要件を具備している以上、自らの取得について対抗要件を具備することを要しない。

 原審はこのように判断し、自動車の代金の立替払いを行った被上告人による留保所有権の行使を認めました。

最高裁の判断

 最高裁は、自動車の代金の立替払いを行った被上告人による留保所有権の行使を認めませんでした。

 本件三者契約は、販売会社において留保していた所有権が代位により被上告人に移転することを確認したものではなく、被上告人が、本件立替金等債権を担保するために、販売会社から本件自動車の所有権の移転を受け、これを留保することを合意したものと解するのが相当であり、被上告人が別除権として行使し得るのは、本件立替金等債権を担保するために留保された上記所有権であると解すべきである。

 被上告人は、本件三者契約により、上告人に対して本件残代金相当額にとどまらず手数料額をも含む本件立替金等債権を取得するところ、同契約においては、本件立替金等債務が完済されるまで本件自動車の所有権が被上告人に留保されることや、上告人が本件立替金等債務につき期限の利益を失い、本件自動車を被上告人に引き渡したときは、被上告人は、その評価額をもって、本件立替金等債務に充当することが合意されているのであって、被上告人が販売会社から移転を受けて留保する所有権が、本件立替金等債権を担保するためのものであることは明らかである。立替払の結果、販売会社が留保していた所有権が代位により被上告人に移転するというのみでは、本件残代金相当額の限度で債権が担保されるにすぎないことになり、本件三者契約における当事者の合理的意思に反するものといわざるを得ない。

 再生手続が開始した場合において再生債務者の財産について特定の担保権を有する者の別除権の行使が認められるためには、個別の権利行使が禁止される一般債権者と再生手続によらないで別除権を行使することができる債権者との衡平を図るなどの趣旨から、原則として再生手続開始の時点で当該特定の担保権につき登記、登録等を具備している必要があるのであって、本件自動車につき、再生手続開始の時点で被上告人を所有者とする登録がされていない限り、販売会社を所有者とする登録がされていても、被上告人が、本件立替金等債権を担保するために本件三者契約に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。


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