否認権の相手方の債権の回復に関して、価額償還の場合の価額の基準時を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和61年4月3日判決
否認権の相手方の債権の回復に関して、目的物の価額が変動している場合に、価額償還の基準時は、いつなのか?という議論があります。
事案の概要
破産会社は、昭和54年11月末ころ支払停止となり、昭和55年3月31日青森地方裁判所において破産宣告を受け、同日上告人がその破産管財人に選任された。
被上告人は、昭和54年11月ころ、破産会社所有の本件トラックを搬出してその所有権を失わせた。被上告人が破産会社に対する債権との相殺を意図して搬出行為をしたとしても、上告人は、昭和57年4月9日送達の本件訴状により、否認権を行使した。
上告人は、本件トラックの搬出時における減価償却残存価額は156万4,995円である、と主張して、被上告人に対し、主位的に不法行為に基づく損害賠償、予備的に否認権行使に基づく価額償還として、156万4,995円及びこれに対する昭和57年4月10日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
被上告人は、破産会社に対する弁済期未到来の売掛金債務308万7,550円のうち150万円の支払に代えて本件トラックを譲り受けたものであり、その後昭和55年4月26日、A社から新車を購入した際、本件トラックを200万円と評価し下取り車として同会社に譲渡した旨主張した。
上告人は、原審において、主位的請求を取り下げ、予備的請求中、本件代物弁済を否認したことに基づく価額償還請求のみを維持して、本件トラックの価額は上記減価償却残存価額を下らない旨主張した。
最高裁の判断
最高裁は、以下のように、否認権行使時の時価で償還すべきと判断しました。
破産法上の否認権行使の結果、現物の返還が不可能なためこれに代えてその価額を償還すべき場合には、その償還すべき価額は、否認権行使時の時価をもって算定すべきものである。