不当労働行為における使用者性と破産手続


破産手続中の不当労働行為における使用者性に関する最高裁判決を紹介します。

池田電機事件最高裁判決(最高裁平成4年2月14日判決)

 不当労働行為の救済申立事件が係属中に、使用者が破産した事案です。団体交渉の相手方が誰なのか?が問題になりました。

事案の概要

 被上告人は、昭和60年ころから急激な円高の影響等により経営不振に陥り、希望退職者の募集、一時帰休による賃金カット等の対策を採ったものの、経営が好転しないまま同62年4月末ころ倒産した。

 被上告人は、同年5月11日、徳島地方裁判所に和議手続開始の申立てをするとともに、その従業員全員を解雇した。

 補助参加人両名は、解雇後、被上告人に対し会社再建、解雇の撤回を求めて団体交渉を申し入れ、同年5月13日から同年7月20日まで5回にわたり補助参加人両名と被上告人との間で団体交渉が行われたが、被上告人は会社再建、解雇の撤回は考えられない旨を明言して両者の主張は平行線をたどり、被上告人はこの問題につきそれ以上交渉をする余地はないとして団体交渉を拒否するに至った。

 補助参加人両名は、団体交渉の拒否は不当労働行為に該当するとして上告人に対し不当労働行為救済の申立てを行ったが、救済申立事件の係属中、和議手続開始の申立てが棄却され、被上告人は、同地方裁判所に破産の申立てをし、同63年1月19日に破産宣告を受けた。その後上告人は、同年10月11日付けで本件救済命令を発した。

 被上告人とA社の間に資本的な関係はなく、また、被上告人は、約5年間、A社の支配下でその発注を受けて経営を行っていたが、同59年4月ころからその支配を脱却して独自に受注先を開拓し経営を行ってきたものであり、解雇当時、従業員の雇用の確保に関してA社の協力を得ることはできない状況にあった。

 被上告人には、破産の廃止に関し破産債権者に対する弁済のために提供すべき資産はなく、破産債権者から破産廃止について同意を得ることはほとんど不可能である。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、原審の判断を是認しています。

 本件救済命令の発令当時において、補助参加人両名の会社再建、解雇撤回の要求について、両名と被上告人との主張は対立し、いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みはなく、団体交渉を継続する余地はなくなっていたというべきであるから、被上告人が右の問題につき団体交渉の継続を拒否していたことに正当な理由がないとすることはできない。本件救済命令のうち被上告人に関する部分を違法として取り消すべきものとした原審の判断は、結論において是認することができる。

 破産手続との関係で、原審は、以下のように判断しています。

 破産宣告を受け破産管財人が選任されて破産手続中である会社の労働に関する権限は、破産手続の進行を前提とする従業員の退職金、一時的な労働者の雇用等については破産管財人に属し、破産管財人が団体交渉の当事者適格を有するので、破産会社の代表者であった者はその殆どの権限を有せず、原則として、団体交渉の当事者適格を有しない。

 しかし、会社代表者には破産廃止の申立権があり、将来事業を再開する法律上の可能性が全くないわけではなく、それを目標とした再雇用ないし労使関係の経営改善の努力の可能性があるとき、又は、他の企業と親子会社の関係にあり代表者の努力によって整理解雇した従業員をその親会社に雇用させることができるときなどの特別の事情がある場合には、破産会社の代表者も団体交渉の当事者適格を有するものと解するのが相当である。

 団体交渉の事項は、権利に基づき直ちにその履行を求める場合に限定されるものではなく、未確定の事項につき使用者及び労働者が交渉の上、新たな法律関係、権利関係の労使関係を設ける機能をも有するので、このような労使関係に事実上の効果を及ぼすべき特別事情の存否についても又交渉の対象となるというべきであるから、原則として、組合が特別事情に関連して団体交渉を求める場合には、破産会社代表者はその限度で団体交渉の当事者適格があるというべきである。

 このことは、破産会社が破産前に従業員全員を整理解雇していても組合がその解雇の効力を争い係争中であるときは、同様に解すべきである。


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