再生手続における別除権協定が破産手続において効力を有するか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁平成26年6月5日判決
別除権協定において再生手続廃止の決定がされること等を同協定の解除条件とする旨の合意をした後、再生手続が廃止されずに、破産手続が開始された事案です。
破産手続において、当該別除権協定の効力が問題になりました。
事案の概要
Aは、平成14年3月、再生手続開始の決定を受けた。その当時、本件各不動産につき、本件各別除権者を権利者とする抵当権又は根抵当権が設定されており、本件各別除権者は、Aに対し、本件各担保権の被担保債権を有していた。
Aは、平成14年9月から10月にかけて、本件各別除権者との間で、次のような条項を含む協定書をそれぞれ取り交わして、本件各別除権協定を締結した。
①Aと本件各別除権者は、本件各別除権者の担保権の内容を変更した結果、上記被担保債権の額よりも減額された本件各受戻価格が被担保債権の額であることを確認する。
②Aは、本件各別除権者に対し、本件各受戻価格の額を平成14年から分割弁済する(分割弁済すべき期間は、早いものでは平成19年まで、遅いものでは平成27年までであった。)。
③Aは、事業を継続するため本件各不動産を使用することができるが、上記②の分割弁済を2回以上怠ったとき等には、本件各不動産を明け渡し、本件各別除権者が本件各担保権を行使することに異議を述べない。
④Aと本件各別除権者は、Aが上記②の分割弁済を完了したときは、本件各担保権が消滅することを確認する。
⑤Aと本件各別除権者は、別除権予定不足額を本件各別除権協定書記載の金額とする。
⑥本件各別除権協定は、再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることを解除条件とする。
平成14年9月、Aの再生事件において、再生債権の元本の8%を同年から平成24年までに一括又は分割して支払う旨の再生計画案が可決されて再生計画認可の決定がされ、その後同決定は確定した。そして、平成17年10月、再生計画認可の決定が確定した後3年を経過したとして再生手続終結の決定がされた。
Aは、再生計画及び本件各別除権協定に基づく弁済をし続けていたが、それらの履行完了前に、同社の取締役が破産手続開始の申立てをしたことで、平成20年1月、破産手続開始の決定を受け、その破産管財人として被上告人が選任された。
上告人Y2は、本件各不動産の担保不動産競売の申立てをし、平成20年10月、その開始決定がされた。
本件配当表に記載された本件各担保権に係る配当実施額は、いずれも本件各別除権協定によって定められた本件各不動産の本件各受戻価格から上記の弁済額を控除した額を超えるものであった。被上告人は、平成21年9月、上記競売事件の配当期日において、本件配当表のうち上記の各超過部分につき異議の申出をした。
原審の判断
本件解除条件条項は、再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることを本件各別除権協定の解除条件とするものであるところ、本件破産手続開始決定はそのいずれにも該当しないから、本件各別除権協定は失効していない。
最高裁の判断
最高裁は、以下のとおり、本件の別除権協定は、破産手続開始決定によって、効力を失うと判断しました。
本件各別除権協定書には、本件各別除権協定の解除条件として、再生計画認可の決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可の決定が確定すること又は再生手続廃止の決定がされることという記載がある一方で、その再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定がされることは明記されていない。しかし、本件各別除権協定の内容からすれば、本件各別除権協定は、再生債務者であるAにつき民事再生法の規定に従った再生計画の遂行を通じてその事業の再生が図られることを前提として、その実現を可能とするために締結されたものであることが明らかであり、そのため、再生計画の遂行を通じて事業の再生が図られるという前提が失われたというべき事由が生じたことを本件解除条件条項により解除条件としているのである。本件のように、再生計画認可の決定が確定した後3年を経過して再生手続終結の決定がされたが、その再生計画の履行完了前に破産手続開始の決定がされる場合は、もはや再生計画が遂行される見込みがなくなり上記の前提が失われた点において、再生手続廃止の決定がされてこれに伴い職権による破産手続開始の決定がされる場合と異なるものではないといえる。また、本件各別除権協定の締結に際し、本件のように再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定がされた場合をあえて解除条件から除外する趣旨で、この場合を解除条件として本件解除条件条項中に明記しなかったものと解すべき事情もうかがわれない。
本件解除条件条項に係る合意は、契約当事者の意思を合理的に解釈すれば、Aがその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに破産手続開始の決定を受けた時から本件各別除権協定はその効力を失う旨の内容をも含むものと解するのが相当である。
Aはその再生計画の履行完了前に再生手続廃止の決定を経ずに本件破産手続開始決定を受けたものであるから、本件各別除権協定は、本件破産手続開始決定時から、本件解除条件条項によりその効力を失ったというべきである。そして、その結果、本件各担保権の被担保債権の額は本件各別除権協定の締結前の額から弁済額を控除した額になり、本件配当表に記載された配当実施額はいずれもこれを超えないから、上告人らは配当を受け得る地位にあるといえる。