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破産手続における開始時現存額主義と物上保証人


破産手続における開始時現存額主義と物上保証人の権利行使の関係を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成22年3月16日判決

 債務者の破産手続開始の決定後に、物上保証人が複数の被担保債権の内の一部の債権を全額を弁済した場合、債権者が、破産手続に参加できるかどうか?が問題になった事案です。

事案の概要

 破産会社は、本件土地の持分2分の1及び本件建物の所有権を、Bは、本件土地の持分2分の1を有していたところ、平成10年9月10日、本件土地及び本件建物につき、中小企業金融公庫との間で、それぞれ根抵当権設定者を破産会社及びB、根抵当権者を中小企業金融公庫、債務者を破産会社、極度額を1億5,000万円、債権の範囲を証書貸付取引とする根抵当権を設定する旨の契約を締結し、同月18日、その旨の根抵当権設定登記手続をした。

 破産会社及びBは、上記契約締結の際、中小企業金融公庫との間で、破産会社が債務の履行をしないときは、中小企業金融公庫において、本件土地及び本件建物を法定の手続によらず、一般に適当と認められる方法、時期、価額等により自由に処分することができ、その処分代金を任意の方法により債務の全部又は一部の弁済に充てることができる旨を合意した。

 中小企業金融公庫は、破産会社に対し、5口合計1億8,000万円を貸し付けた。

 大阪地裁堺支部は、平成17年12月12日午後5時、破産会社について破産手続を開始する旨の決定をし、上告人をその破産管財人に選任した。

 本件土地及び本件建物は、平成18年3月28日、任意売却された。中小企業金融公庫は、破産会社に対する別除権の行使により、本件土地の破産会社の持分の売却代金から4,817万8,443円、本件建物の売却代金から2,878万1,928円、合計7,696万0,371円を本件破産債権に対する弁済として受領し、これを本件貸付けに係る同日までの遅延損害金合計684万1,398円、本件貸付けに係る約定利息金合計35万2,815円、貸付1の貸付金元本3,528万円、貸付2の貸付金元本1,119万4,000円、貸付3の貸付金元本のうちの2,329万2,158円に充当した。また、中小企業金融公庫は、Bに対する根抵当権の行使として、本件土地のBの持分の売却代金から4,817万8,444円を本件破産債権に対する弁済として受領した。

 中小企業金融公庫は、破産会社の破産手続において、平成18年4月10日付けで、本件破産債権につき別除権行使によって弁済を受けることができないと見込まれる債権の額が確定したとして、全債権額1億3,198万0,213円(本件貸付けの貸付金元本合計1億2,478万6,000円、約定利息金合計35万2,815円、同年3月28日までの遅延損害金合計684万1,398円の合計額)から別除権の行使により弁済を受けた7,696万0,371円を控除した残額である5,501万9,842円を確定不足額とする届出書を提出した。上告人が同年7月6日に行われた債権調査期日で上記の確定不足額全額について異議を述べたため、中小企業金融公庫は、同月28日、破産裁判所に対し、本件破産債権の額の査定を申し立てたところ、同裁判所は、同年10月24日、本件破産債権の額を5,501万9,842円と査定する旨の決定をした。

 上告人は、上記決定を不服とし、本件破産債権の額を2,244万4,000円(別除権の行使により弁済を受けた7,696万0,371円の弁済及びBに対する根抵当権の行使により弁済を受けた4,817万8,444円を充当しても、なお全額が消滅するに至らなかった貸付5の貸付金元本額)と査定することを求めて、本件訴えを提起した。

最高裁の判断

 最高裁は、債権者は、破産手続に参加することはできないと判断しました。

 同一の給付について複数の者が「各自全部の履行をする義務」を負う場合、全部義務者の破産手続開始の決定後に、他の全部義務者が債権者に対し弁済その他の債務を消滅させる行為をすれば、実体法上は、上記弁済等に係る破産債権は、上記弁済等がされた範囲で消滅する。しかし、破産法104条1項及び2項は,複数の全部義務者を設けることが責任財産を集積して当該債権の目的である給付の実現をより確実にするという機能を有することにかんがみ、この機能を破産手続において重視し、全部義務者の破産手続開始の決定後に、他の全部義務者が弁済等をした場合であっても、破産手続上は、その弁済等により破産債権の全額が消滅しない限り、当該破産債権が破産手続開始の時における額で現存しているものとみて、債権者がその権利を行使することができる旨(いわゆる開始時現存額主義)を定め、この債権額を基準に破産債権者に対する配当額を算定することとしたものである。

 同条1項及び2項は、上記の趣旨に照らせば、飽くまで弁済等に係る当該破産債権について、破産債権額と実体法上の債権額とのかい離を認めるものであって、同項にいう「その債権の全額」も、特に「破産債権者の有する総債権」などと規定されていない以上、弁済等に係る当該破産債権の全額を意味すると解するのが相当である。そうすると、債権者が複数の全部義務者に対して複数の債権を有し、全部義務者の破産手続開始の決定後に、他の全部義務者が上記の複数債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済等した場合には、弁済等に係る当該破産債権についてはその全額が消滅しているのであるから、複数債権の全部が消滅していなくても、同項にいう「その債権の全額が消滅した場合」に該当するものとして、債権者は、当該破産債権についてはその権利を行使することはできないというべきである。

 破産法104条5項は、物上保証人が債務者の破産手続開始決定の後に破産債権である被担保債権につき債権者に対し弁済等をした場合において、同条2項を準用し、その破産債権の額について、全部義務者の破産手続開始の決定後に他の全部義務者が債権者に対して弁済等をした場合と同様の扱いをしている。

 したがって、債務者の破産手続開始の決定後に、物上保証人が複数の被担保債権のうちの一部の債権につきその全額を弁済した場合には、複数の被担保債権の全部が消滅していなくても、上記の弁済に係る当該債権については、同条5項により準用される同条2項にいう「その債権の全額が消滅した場合」に該当し、債権者は、破産手続においてその権利を行使することができないものというべきである。


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