破産法は、相殺の担保的機能を重視し、破産債権者の相殺権の範囲を民法の規定よりも拡張しています。
破産手続における相殺権の拡張
破産手続開始決定後に破産債権者が相殺権を行使するには、民法の原則からすると、破産手続開始決定時に、自働債権と受働債権が相殺適状にある必要があると考えられます(民法505条1項本文)。
しかし、以下のとおり、破産法67条2項は、自働債権・受働債権のそれぞれについて、相殺権を拡張しています。
自働債権
破産手続においては、自働債権である破産債権は、破産手続開始決定により、期限未到来の債権も現在化され(破産法103条3項)、非金銭債権も金銭化されます(破産法103条2項1号)。破産法は、期限付債権、非金銭債権等を自働債権とすることを認め、自働債権の範囲を拡張しています。
破産手続開始決定時に期限未到来の債権であっても、破産債権者は、期限の到来を待たずに期限付破産債権を自働債権として相殺することができます。
破産債権が解除条件付債権である場合、破産債権者は、その全額を自働債権として相殺することができます。
また、非金銭債権、金額不確定の金銭債権等についても、これらの債権を自働債権として破産債権者は、相殺することができます。
破産債権が停止条件付債権、将来の請求の場合、破産債権は、停止条件が成就しない又は将来の請求権が現実化していない時点で破産管財人から受働債権の履行を求められたときは、破産管財人に対して後日の相殺権の行使に備え、破産債権の限度で弁済額の寄託を求めることができます。
受働債権
受働債権である破産財団に帰属する債権は、破産手続開始決定によって金銭化はされません。受働債権の現在化については、以下のように、相殺権の拡張を認めています。
破産債権者は、破産手続開始決定時に受働債権の期限が未到来であっても、期限の利益を放棄して、相殺権を行使することができます。
受働債権が停止条件付債権である場合、破産債権者は、停止条件の条件不成就の機会を放棄して、相殺権を行使することができます(破産法67条2項後段)。また、破産債権者は、直ちに相殺権を行使せず、破産手続中に条件が成就するのを待って、相殺権を行使することもできると解されています。
破産手続開始決定時に解除条件付債務を負担している破産債権者は、条件成就の機会を放棄し相殺権を行使することができます。