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敷金に質権が設定されている場合の破産管財人の義務を判断した最高裁判決


賃借人が破産した場合の賃貸借契約の取扱いを取り上げました(賃借人の破産と賃貸借契約)。敷金に質権が設定されている場合の破産管財人の義務を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成18年12月21日判決

 敷金返還請求権に質権が設定されている場合の破産管財人の担保価値維持義務を判断した最高裁判決です。

最高裁の判断

 最高裁は、①質権設定者の破産管財人が、質権設定者が質権者に負担する敷金返還請求権の担保価値を維持する義務を承継すること、②管財人は質権者に対して、正当な理由に基づくことなく未払債務を発生させて、敷金返還請求権の発生を阻害してはならないと判断しました。 

 債権が質権の目的とされた場合において、質権設定者は、質権者に対し、当該債権の担保価値を維持すべき義務を負い、債権の放棄、免除、相殺、更改等当該債権を消滅、変更させる一切の行為その他当該債権の担保価値を害するような行為を行うことは、同義務に違反するものとして許されないと解すべきである。

 そして、建物賃貸借における敷金返還請求権は、賃貸借終了後、建物の明渡しがされた時において、敷金からそれまでに生じた賃料債権その他賃貸借契約により賃貸人が賃借人に対して取得する一切の債権を控除し、なお残額があることを条件として、その残額につき発生する条件付債権であるが、このような条件付債権としての敷金返還請求権が質権の目的とされた場合において、質権設定者である賃借人が、正当な理由に基づくことなく賃貸人に対し未払債務を生じさせて敷金返還請求権の発生を阻害することは、質権者に対する上記義務に違反するものというべきである。

  また、質権設定者が破産した場合において、質権は、別除権として取り扱われ、破産手続によってその効力に影響を受けないものとされており、他に質権設定者と質権者との間の法律関係が破産管財人に承継されないと解すべき法律上の根拠もないから、破産管財人は、質権設定者が質権者に対して負う上記義務を承継すると解される。そうすると、破産管財人は、本件各賃貸借に関し、正当な理由に基づくことなく未払債務を生じさせて本件敷金返還請求権の発生を阻害してはならない義務を負っていたと解すべきである。

 本件宣告後賃料等のうち原状回復費用については、賃貸人において原状回復を行ってその費用を返還すべき敷金から控除することも広く行われているものであって、敷金返還請求権に質権の設定を受けた質権者も、これを予定した上で担保価値を把握しているものと考えられるから、敷金をもってその支払に当てることも、正当な理由があるものとして許されると解すべきである。他方、本件宣告後賃料等のうち原状回復費用を除く賃料及び共益費については、前記事実関係によれば、管財人は、本件各賃貸借がすべて合意解除された平成11年10月までの間、破産財団に本件賃料等を支払うのに十分な銀行預金が存在しており、現実にこれを支払うことに支障がなかったにもかかわらず、これを現実に支払わないで本件敷金をもって充当する旨の合意をし、本件敷金返還請求権の発生を阻害したのであって、このような行為は、特段の事情がない限り、正当な理由に基づくものとはいえないというべきである。本件行為が破産財団の減少を防ぎ、破産債権者に対する配当額を増大させるために行われたものであるとしても、破産宣告の日以後の賃料等の債権は財団債権となり、破産債権に優先して弁済すべきものであるから、これを現実に支払わずに敷金をもって充当することについて破産債権者が保護に値する期待を有するとはいえず、本件行為に正当な理由があるとはいえない。

 ただし、最高裁は、破産管財人の損害賠償責任は否定しています。


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