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破産手続における租税債権の財団債権該当性に関する最高裁判決


法人の破産手続において、租税債権の財団債権該当性が問題になった最高裁判決を紹介します。

最高裁昭和62年4月21日判決

 破産法人の住民税・予定法人税等が、財団債権に該当するか?が問題になった事案です(破産手続における一般の財団債権と租税債権②も参照)。

事案の概要

 破産者A社は、昭和49年5月11日、破産宣告を受けた。

 破産者A社には、昭和54年9月1日から昭和55年8月31日までの事業年度において、土地譲渡益、預金利息、違約金等の所得があったため、同社の破産管財人である上告人は、昭和55年10月31日、次のような租税の申告を行つた。

 (1) 上告人は、法人税法102条1項の規定に基づき、所得金額1億6,323万9,385円、これに対する税額6,445万5,600円、租税特別措置法(昭和57年法律第8号による改正前のもの。以下同じ。)63条1項に規定する譲渡利益金額の合計額4,598万5,000円、これに対する税額919万7,000円、控除税額49万3,678円、納付すべき法人税額7,315万8,900円との申告をした。

 (2) 上告人は、地方税法53条2項及び72条の29第1項の規定に基づき、府民税額457万2,420円(法人税割額456万6,420円、均等割額6,000円)、事業税額1,927万3,680円との申告をした。

 (3) 上告人は、地方税法321条の8第2項の規定に基づき、市民税額1,070万3,540円(法人税割額1,067万9,540円、均等割額2万4,000円)との申告をした。

 中京税務署長は、(1)の申告に対し、昭和56年2月27日付けで、租税特別措置法63条1項に規定する譲渡利益金額の合計額を1億6,361万7,000円、これに対する税額を3,272万3,400円、納付すべき法人税額を9,668万5,300円とする旨の更正をするとともに、過少申告加算税117万6,300円の賦課決定をした。

 京都府中京府税事務所長は、法人税の更正を受け、(2)の申告に対し、昭和56年4月10日付けで、府民税額を603万1,090円とする旨の更正をした。

 京都市中京区長は、法人税の更正を受け、(3)の申告に対し、昭和56年6月30日付けで、市民税額を1,411万4,950円とする旨の更正をした。

最高裁の判断

 旧破産法47条2号但書が、国税徴収法又は国税徴収の例により徴収することのできる請求権で破産宣告後の原因に基づくもののうち財団債権となるのは「破産財団ニ関シテ生シタルモノニ限ル」と規定しているのは、同請求権のうち、破産財団の管理のうえで当然支出を要する経費に属するものであって、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当であるものに限って、これを財団債権とする趣旨であると解すべく、その「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産財団を構成する財産の所有・換価の事実に基づいて課せられ、あるいは同財産から生ずる収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのが相当である。

(1) 本件法人税の一般部分

 清算所得課税制度のもとでの予定法人税について、最高裁は以下のとおり、財団債権に該当しないと判断しています。

 内国普通法人等の清算中に生じた各事業年度の所得については、当該法人等が継続し又は合併により消滅した場合を除き、各事業年度の所得に対する法人税を課さないこととされている。内国普通法人等は、その清算中の各事業年度の所得を解散していない内国普通法人等の各事業年度の所得とみなして計算した場合における当該事業年度の課税標準である所得の金額につき、法人税法第2編第1章第2節の規定を適用するものとした場合に計算される法人税の金額があるときは、当該金額に相当する法人税(以下「予納法人税」という。)を納付しなければならないとされているが、この予納法人税は、清算中の内国普通法人等が継続し又は合併により消滅する場合を除き、清算所得に対する法人税の予納として扱われ、当該法人等が継続し又は合併により消滅した場合には、解散の日の翌日から継続の日の前日又は合併の日までの清算期間に係る各事業年度の所得に対する法人税とみなされるものである。

 株式会社が破産宣告を受けた場合についていえば、破産管財人が破産財団から破産債権者に対し配当を行って破産債権者に対する弁済を完了したときは、裁判所は所定の手続を経て破産終結決定を行うことになるが、破産終結の時点で残余財産が存する場合は、当該会社は、その管理処分権を回復して通常の清算手続に入り、すべての債務を完済して株主に分配すべき残余財産が確定した時において、清算所得の金額が存するときは、残余財産が確定した時に清算所得に対する法人税の納税義務を負い、残余財産が確定した日の翌日から1か月以内にこれを申告納付することになるのである。以上のとおり、清算所得に対する法人税は、破産手続終了後の残余財産の一部である清算所得を課税の対象とするものであり、その税の予納ということは、破産債権者の共同の満足に充てるため独立の管理機構のもとに統合されるところの破産者の総財産たる破産財団とは直接関係のない事柄である。破産法人が強制和議、同意廃止などにより継続した場合には、当該法人は、清算期間中に生じた各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を納付すべきことになるが、その場合の課税関係も破産の目的の範囲内において存在するにすぎない破産財団とは係わりのないことといわなければならない。

 予納法人税の制度は、清算所得が生ずる場合その基になる利益は清算中に漸次実現していくのに対し、清算事務が長引くことによって清算所得に対する課税が著しく遅れることに対処するとともに、他方解散した法人が再び継続した場合等に、清算期間の各事業年度において課せられた予納法人税を当該期間に係る各事業年度の所得に対する法人税とみなすことによって、課税に空白が生じないようにする趣旨で設けられたものであり、清算所得に対する課税及び清算中の法人が継続した場合等の課税の方式として合理性を有するものである。しかしながら、破産清算において残余財産が生じ、あるいは破産法人が継続する場合は極めて例外的な事例に属することであり、予納法人税の課税の趣旨が上記の点にあるとはいっても、かかる例外的な場合に備えて予納法人税の債権を破産債権に優先して徴収できるものとし、最後の配当が終了し又は配当財団の換価が終了して清算所得の生じないことが確定した段階で予納額の還付を受けさせることとするのは、合理性を欠くというべきであって、予納法人税の債権が公益上の理由から破産債権に優先するものとして扱われるべきであるということはできない。したがって、予納法人税の債権は、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費とはいえず、その意味において旧破産法47条2号但書にいう「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」には当たらないと解するのが相当である。

(2) 法人税の土地重課部分

 租税特別措置法63条1項所定の土地重課税は、法人が昭和44年1月1日以後に他の者から取得した土地等の譲渡等をした場合に、当該土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を基礎とし、本来の各事業年度の所得に対する法人税の額又は清算所得に対する法人税の額とは別途に計算された上で本来の法人税額に上乗せされる租税であり、本来の法人税額が存しないときであっても納付すべきものである。本来の法人税額を計算するに当たってその他の損益と通算し所得に含められる譲渡利益金額の合計額を他の所得から分離し、これを課税の対象とするものであるというができる。内国普通法人等は、清算中に土地等の譲渡による譲渡利益金額が生じたときは、これに係る土地重課税の額を本来の清算所得に対する法人税の額に加算して納税する義務を負い、清算中の各事業年度に土地等の譲渡による譲渡利益金額が生じたときは、これに係る土地重課税の額(以下「予納法人税の土地重課部分」という。)を本来の予納法人税の額に加算して納付しなければならない。予納法人税の土地重課部分も、清算中の内国普通法人等が継続し又は合併により消滅する場合を除き、清算所得に対する法人税の予納として扱われるものであるが、内国普通法人等は、清算中の土地等の譲渡による譲渡損益の金額を通算し譲渡利益金額があるときは、これに係る土地重課税を本来の清算所得に対する法人税の額が存するかどうかにかかわらず納付しなければならないから、予納法人税の土地重課部分は、内国普通法人等が納税すべき土地重課税の額を超え過納となる場合を除き、納め切りになるものである。

 以上のとおり、土地重課税は、土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を分離しこれを課税の対象とし、本来の法人税額が存しないときであっても課せられるものであり、また、予納法人税の土地重課部分は、清算中の各事業年度の土地等の譲渡による譲渡利益金額を基礎として計算されるものであり、清算所得に対する法人税の予納として扱われるものの、清算所得に対する法人税の額が土地重課税の額を加算した金額とされるところから、原則として納め切りになるものである。したがって、破産財団に属する土地等が譲渡され、その譲渡利益金額が実質的に破産財団に帰属する場合には、土地等の譲渡に係る土地重課税及び予納法人税の土地重課部分は、破産財団を構成する財産からの収益に対して課せられる租税として、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費に属し、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たると解するのが相当である。

 しかし、破産財団に属する土地等が別除権の目的となっている場合については、一考を要する。別除権の目的たる土地等は、形式的には破産財団に属するものの、破産債権者の共同的満足の引当となるのは別除権行使後の余剰部分のみであり、実質的には、余剰部分のみが、破産財団に属するのである。別除権の目的たる土地等の譲渡による譲渡利益金額についてみると、当該土地等の譲渡による収益の額から譲渡に際し支出された譲渡経費(換価費用)の額及び別除権者に対する優先弁済額を控除した残額が、その譲渡による譲渡利益金額以上であるときは、その譲渡利益金額は実質的に全部破産財団に帰属するとみることができるが、残額が譲渡利益金額に満たないときは、譲渡利益金額の中のその満たない金額に相当する部分は別除権者に対する優先弁済に充てられ、実質的にはその余の部分のみが破産財団に帰属するとみるべきである。したがって、土地重課税の課税の対象となる土地等の中に別除権の目的となっている土地等が含まれ、かつ、その譲渡による譲渡利益金額の中に別除権者に対する優先弁済部分が存するときは、土地重課税又は予納法人税の土地重課部分のうち、課税の対象となる土地等の譲渡に係る譲渡利益金額の合計額から優先弁済部分を控除した金額(譲渡利益金額の合計額の中の実質的に破産財団に帰属する部分)を基礎に計算される土地重課税の額に相当する部分のみが、破産債権者において共益的な支出として共同負担するのが相当な破産財団管理上の経費として、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に当たり、その余の部分は、これに当たらないというべきである。

(3) 過少申告加算税

 過少申告加算税の債権は、本税たる租税債権に附帯して生ずるものであるから、それが財団債権に当たるかどうかは、本税たる租税債権が財団債権性を有するかどうかにかかるものというべきである。

  したがって、本件過少申告加算税の債権のうち、本税たる本件法人税債権の中の財団債権部分に対応する部分は財団債権に当たり、その余の部分は財団債権に当たらない。

(4) 府民税・市民税

 法人に対する府民税・市民税のうちの均等割は、府内又は市内に事務所又は事業所を有することに伴い資本金額等に応じ均等に課せられるものである。したがって、破産法人に対する右均等割は、破産法人が破産の目的の範囲内においてなお存続することに伴い負担すべき経費に属し、その債権は財団債権に当たるというべきである。

 一方、法人に対する府民税・市民税のうちの法人税割は、法人税の額を課税標準とするものであり、実質的には当該法人税に係る所得又は土地等の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額を課税の対象とするものであるということができる。清算所得に対する法人税の納税義務を負う法人は、その法人税額を課税標準として算定した法人税割額について納税義務を負い、また、予納法人税を納付する義務のある法人は、その法人税額を基礎に算定した法人税割額を納付しなければならない。法人税割に係る予納税は、清算所得に対する法人税の額が存しないときには還付されるものであって、その性格は、予納法人税の性格と同じである。したがって、上記で説示したところと同様の理由により、その債権のうち、前記譲渡利益金額の合計額の中の実質的に破産財団に帰属する部分に対応する部分のみが財団債権に当たり、その余の部分は財団債権に当たらないというべきである。そうすると、結局のところ、法人税割に係る予納税の債権のうち財団債権に当たるのは、予納法人税の債権の財団債権部分に対応する部分であり、その余の部分は財団債権に当たらないということができる。

(5) 事業税

 法人に対し課せられる事業税は,各事業年度の所得又は清算所得を課税の対象とするものである。法人の清算中に生じた所得に対しては、当該法人が継続し又は合併により消滅した場合を除き、各事業年度の所得に対する事業税は課せられない。清算中の法人は、残余財産が確定した時において清算所得の金額が存するときは、清算所得に対する事業税の納税義務を負い、また、清算中の各事業年度の所得を解散していない法人の所得とみなして、その事業年度の所得及びこれに対する事業税額を計算し、その税額があるときは、当該金額に相当する事業税を納付しなければならない。事業税に係る予納税は、法人が継続し又は合併により消滅した場合には清算期間中の各事業年度の所得に対する事業税とみなされるが、それ以外の場合は清算所得に対する事業税の予納として扱われるのであって、その性格は、予納法人税の性格と同じである。したがって、上記で説示したところと同様の理由により、その債権は、財団債権に当たらないというべきである。


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