破産法は、一定の場合に相殺を禁止しています。相殺禁止に反する合意の有効性を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和52年12月6日判決
破産債権者と破産管財人による合意による相殺が、相殺禁止に反するか?が争われた事案です。
破産手続における相殺禁止については、以下の「破産手続と相殺禁止」を参照
事案の概要
Xは、昭和47年2月15日支払を停止し、同年7月4日、破産宣告を受け、同日、上告人が破産管財人に選任された。
被上告人は、支払停止の日にその事実を知り、その以前から取引していたXとの当座勘定取引契約を解約したうえ、同会社のため別段預金を開設した。同年6月17日の時点で、被上告人はXに対し手形貸付金債権38万0,781円を有し、他方、Xは被上告人に対し別段預金債権43万2,636円を有しており、それは、同年2月19日から同年3月25日までの間にXの取引先からXに対する支払として振込まれたものであった。
被上告人は、同年6月17日、Xに対し右手形貸付金債権38万0,781円を自働債権とし同会社の右別段預金債権を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をした。
その後、上告人から被上告人に対し本件相殺に供された被上告人の自働債権を被担保債権とする根抵当権の抹消登記を申し入れ、当事者間に、被上告人においてその抹消登記手続をするとともに、他方、上告人は本件相殺を有効なものと認めて破産法上の相殺禁止を理由に右別段預金の払戻請求をしない旨の合意が成立した。
最高裁の判断
最高裁は、破産債権者と破産管財人による合意であっても、相殺禁止に反する合意は、無効であると判断しました。
破産債権者が支払の停止を知ったのちに破産者に対して負担した債務を受働債権としてする相殺は、破産法上原則として禁止されており、かつ、この相殺禁止の定めは債権者間の実質的平等を図ることを目的とする強行規定と解すべきであるから、その効力を排除するような当事者の合意は、たとえそれが破産管財人と破産債権者との間でされたとしても、特段の事情のない限り無効であると解するのが、相当である。
本件相殺に供されたXの別段預金は、その取引先からXに対する支払として被上告人銀行に振込まれたものであって、被上告人がこれを受け入れた時点において被上告人はXに対し同預金返還債務を負担するに至ったものと解すべきであるところ、振込みは被上告人がXの支払停止を知った後に行われたというのであるから、被上告人の反対債権がXの破産宣告前に発生したものであつても、本件相殺が破産法による相殺禁止の場合にあたることが明らかである。したがって、たとえ、被上告人とXの破産管財人たる上告人との間で、前記のとおり被上告人において根抵当権の抹消登記手続をするとともに上告人からは相殺禁止を理由に前記別段預金の払戻請求をしない旨の合意をしたとしても、他に特段の事情が認定されていない本件においては、本件相殺は無効であるといわざるをえない。