破産手続において,相殺権の濫用について判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁昭和53年5月2日判決

 銀行の手形割引による手形債権の取得に関して,相殺の可否が問題になった事案です。

最高裁の判断

 約束手形の裏書を受けてこれを所持する者が,その手形の支払を受けることができなくなった場合において,そのまま当該手形を自己の手中にとどめて振出人に対し手形上の権利を行使することとするか,又は手形の買戻請求権ないし遡求権を行使することとするかは,その者が自由な意思により選択決定しうるところである。したがって,本件において,A銀行が,たまたま前者の道を選択し,破産会社に対する手形債権と破産会社の同銀行に対する預金返還請求権とを対当額において相殺する意思表示をすることにより手形上の権利の満足実現を図ったからといって,それはA銀行の自由な選択決定の結果であって,被上告人の関知するところではなく,そのために被上告人が買戻請求権ないし遡求権の行使を免れ,結果において利得するところがあったとしても,被上告人の利得と破産会社がその預金返還請求権の一部を相殺によって失った損失との間に民法703条の予定する法律上の因果関係があるということはできない。

 そうすると,他に特段の事実の主張立証のない本件においては,上告人が被上告人に対し不当利得返還請求権を有することを前提とする相殺の抗弁は,主張自体,失当である。

  また,本件手形とは別個の約束手形について事前配当を受けた被上告人には本件確定の訴の基本である本件手形金債権はない旨の上告人の主張は,本件手形金債権の消滅事由としては,主張自体,失当である。