委託を受けない保証人の求償権と破産手続における相殺禁止


破産手続において、委託を受けない保証人が保証債務を履行して取得した事後求償権を自働債権とした相殺が認められるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成24年5月28日判決

 破産手続において、破産手続開始後に債権を取得した場合は、相殺が禁止されています(破産手続と相殺禁止)。破産債権を被担保債権とする保証人が、破産債権を代位取得した場合も相殺が禁止されます。

 ただし、保証人が弁済を行い、求償権が現実化した場合、将来の請求権が現実化したとして相殺が有効であるとの見解が有力とされています。

 この判決では、委託を受けない保証人が、保証債務を履行して取得した事後求償権を自働債権とする相殺が認められるかどうか?が争われました。

事案の概要

 a社、b社、c社、d社、e社及びf社は、銀行業を営む会社である被上告人との間で、それぞれ当座勘定取引契約を締結していた。被上告人は、平成18年4月28日、a社らの委託を受けないで、a社らの取引先であるg社との間で、a社らが同日から平成19年4月27日までの間にそれぞれg社に対して負担する買掛債務及び手形債務につき、極度額を定めてそれぞれ保証する旨の保証契約を締結した。

 a社らは、いずれも、平成18年8月31日、破産手続開始の決定を受け、承継前上告人らが、それぞれ、破産管財人に選任された。

 被上告人は、平成19年3月27日及び同月28日、本件各保証契約に基づく保証債務の履行として、g社に対し、a社の債務2,400万円を、b社の債務723万0,428円を、c社の債務270万2,700円を、d社の債務73万2,615円を、e社の債務47万0,985円を、f社の債務200万円をそれぞれ弁済した。承継前上告人らは、平成19年5月9日、それぞれ、本件各当座勘定取引契約に定められた手続により、本件各当座勘定取引契約を解約した。

 被上告人は、平成19年6月12日、承継前上告人らに対し、前記弁済により取得した求償権と本件各当座勘定取引契約に基づきa社らが被上告人に対して有する債権とをそれぞれ対当額において相殺する旨の意思表示をした。

最高裁の判断

 最高裁は、以下のとおり、相殺を認めませんでした。

 保証人は、弁済をした場合、民法の規定に従って主たる債務者に対する求償権を取得するのであり、このことは、保証が主たる債務者の委託を受けてされた場合と受けないでされた場合とで異なるところはない。このように、無委託保証人が弁済をすれば、法律の規定に従って求償権が発生する以上、保証人の弁済が破産手続開始後にされても、保証契約が主たる債務者の破産手続開始前に締結されていれば、当該求償権の発生の基礎となる保証関係は、その破産手続開始前に発生しているということができるから、当該求償権は、「破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」に当たるものというべきである。したがって、無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において、保証人が主たる債務者である破産者に対して取得する求償権は、破産債権であると解するのが相当である。

 相殺は、互いに同種の債権を有する当事者間において、相対立する債権債務を簡易な方法によって決済し、もって両者の債権関係を円滑かつ公平に処理することを目的とする合理的な制度であって、相殺権を行使する債権者の立場からすれば、債務者の資力が不十分な場合においても、自己の債権について確実かつ十分な弁済を受けたと同様の利益を得ることができる点において、受働債権につきあたかも担保権を有するにも似た機能を営むものである。上記のような相殺の担保的機能に対する破産債権者の期待を保護することは、通常、破産債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする破産制度の趣旨に反するものではないことから、破産法67条は、原則として、破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺を認め、同破産債権者が破産手続によることなく一般の破産債権者に優先して債権の回収を図り得ることとし、この点において、相殺権を別除権と同様に取り扱うこととしたものと解される。

 他方、破産手続開始時において破産者に対して債務を負担する破産債権者による相殺であっても、破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においては、上記基本原則を没却するものとして、破産手続上許容し難いことがあり得ることから、破産法71条、72条がかかる場合の相殺を禁止したものと解され、同法72条1項1号は、かかる見地から、破産者に対して債務を負担する者が破産手続開始後に他人の破産債権を取得してする相殺を禁止した。

 破産者に対して債務を負担する者が、破産手続開始前に債務者である破産者の委託を受けて保証契約を締結し、同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合には、この求償権を自働債権とする相殺は、破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続の下においても、他の破産債権者が容認すべきものであり、同相殺に対する期待は、破産法67条によって保護される合理的なものである。しかし、無委託保証人が破産者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をして求償権を取得した場合についてみると、この求償権を自働債権とする相殺を認めることは、破産者の意思や法定の原因とは無関係に破産手続において優先的に取り扱われる債権が作出されることを認めるに等しいものということができ、この場合における相殺に対する期待を、委託を受けて保証契約を締結した場合と同様に解することは困難というべきである。無委託保証人が上記の求償権を自働債権としてする相殺は、破産手続開始後に、破産者の意思に基づくことなく破産手続上破産債権を行使する者が入れ替わった結果相殺適状が生ずる点において、破産者に対して債務を負担する者が、破産手続開始後に他人の債権を譲り受けて相殺適状を作出した上同債権を自働債権としてする相殺に類似し、破産債権についての債権者の公平・平等な扱いを基本原則とする破産手続上許容し難い点において、破産法72条1項1号が禁ずる相殺と異なるところはない。

 無委託保証人が主たる債務者の破産手続開始前に締結した保証契約に基づき同手続開始後に弁済をした場合において、保証人が取得する求償権を自働債権とし、主たる債務者である破産者が保証人に対して有する債権を受働債権とする相殺は、破産法72条1項1号の類推適用により許されないと解するのが相当である。


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