破産の免責許可決定の効力の及ぶ債務の保証人と消滅時効の援用


破産免責の効力の及ぶ債務の保証人が、その債務の消滅時効を援用できるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成11年11月9日判決

 主債務者が破産により免責決定を受けた場合、免責決定の効力の及ぶ債務を保証した保証人が、その債権について、消滅時効を援用することができるか?が争われた事案です。

事案の概要

 商人であるAは、昭和56年4月27日、B銀行から次の約定で250万円を借り入れた。

  (1)利息:年9.8パーセント

  (2)返済期限:昭和56年7月から昭和61年3月まで毎月23日限り4万4,000円(最終回3万6,000円)の分割払

  (3)特約条項:分割金の支払を一回でも怠ったときはB銀行からの請求により期限の利益を失う。

 上告人は、昭和56年4月27日、Aの委託により、次の内容の信用保証委託契約を締結した。

 (1)AがB銀行から金員を借り入れるにつき、上告人は、貸付金250万円の限度で信用保証協会法に基づく保証を行う。

 (2)上告人がAのためにB銀行に弁済したときは、Aは、上告人に対し、直ちに右弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による損害金を支払う。

 被上告人は、前記信用保証委託契約締結に際し、上告人との間で、Aが前記信用保証委託契約に基づき上告人に対して負担する一切の債務について連帯して保証する旨約した。

 Aは昭和59年9月28日に期限の利益を失い、上告人は、同年10月19日、前記信用保証委託契約に基づき、B銀行に対し、残元金179万6,000円及び未払利息33万4,363円の合計213万0,363円を弁済した。

 その後、上告人は、原判決別紙「一部弁済ならびに損害金計算表①」記載のとおり、一部弁済を受けた。

 Aは、昭和57年6月22日、C信用金庫から次の約定で600万円を借り入れた。

 (1)利息:年8.2パーセント

 (2)返済期限:昭和57年10月から昭和64年6月まで毎月15日限り7万4,000円(最終回8万円)の分割払

 (3)特約条項:分割金の支払を一回でも怠ったときはC信用金庫からの請求により期限の利益を失う。

 上告人は、昭和57年6月22日、Aの委託により、次の内容の信用保証委託契約を締結した。

 (1)AがC信用金庫から金員を借り入れるにつき、上告人は貸付金600万円の限度で信用保証協会法に基づく保証を行う。

 (2)上告人がAのためにC信用金庫に弁済したときは、Aは、上告人に対し、直ちに弁済額及びこれに対する弁済の日の翌日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による損害金を支払う。

 被上告人は、前記信用保証委託契約締結に際し、上告人との間で、Aが前記信用保証委託契約に基づき上告人に対して負担する一切の債務について連帯して保証する旨約した。

 Aは昭和59年9月12日に期限の利益を失い、上告人は、同年10月19日、前記信用保証委託契約に基づき、C信用金庫に対し、残元金548万2,000円及び未払利息64万4,095円の合計612万6,095円を弁済した。

 その後、上告人は、原判決別紙「一部弁済ならびに損害金計算表②」記載のとおり、一部弁済を受けた。

 Aは、昭和60年9月13日、破産の宣告と同時に破産廃止の決定を受け、昭和61年8月19日、免責決定を受け、同決定はそのころ確定した。

 上告人は、被上告人に対し、上記各連帯保証契約に基づく保証債務の履行として、1235万2,218円及びうち803万6,458円に対する昭和63年5月31日から支払済みまで年14.6パーセントの割合による金員の支払を求める訴訟を提起して、平成2年1月16日に上告人の請求を全部認容する旨の判決の言渡しを受け、同判決は平成3年3月9日に確定した。

 上告人は、商事債権であるAに対する上記各信用保証委託契約に基づく各求償債権につき商事消滅時効の完成が間近に迫っており、これを中断する必要があるとして、平成8年1月17日、被上告人に対し、上記連帯保証債務の履行を求めて、本件訴訟を提起した。

最高裁の判断

 最高裁は、主債務者である破産者が免責決定を受けた場合、免責決定の効力の及ぶ債務を保証した保証人は、その債権の消滅時効を援用できないと判断しました。

 免責決定の効力を受ける債権は、債権者において訴えをもって履行を請求しその強制的実現を図ることができなくなり、同債権については、もはや民法166条1項に定める「権利を行使することを得る時」を起算点とする消滅時効の進行を観念することができないというべきであるから、破産者が免責決定を受けた場合には、免責決定の効力の及ぶ債務の保証人は、その債権についての消滅時効を援用することはできないと解するのが相当である。

 上記事実関係によれば、免責決定の確定によりAは本件債権につきその責任を免れており、Aの連帯保証人である被上告人は、もはや本件債権についての消滅時効を援用することはできないところ、上告人は、被上告人に対して上記連帯保証債務の履行を求める別件訴訟を提起して勝訴判決を得ており、同判決が平成3年3月9日に確定しているのであるから、上告人においてこれと同一の債権につき更に給付を求める本件訴えは、訴えの利益を欠くというべきである。


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