破産法は、実質的危機時期に相殺適状を作出した場合を相殺禁止としています(破産手続と相殺禁止)。しかし、相殺禁止には例外があります。
破産手続における相殺禁止の例外
破産法は、以下の2つの場合に、相殺禁止の例外として、相殺を許容しています。
相殺禁止の例外
①法定の原因にと基づく場合(破産法71条2項1号)
②実質的危機時期を知る前に生じた原因(破産法71条2項2号)
①法定の原因に基づく場合
破産者に対して債務を負担する者の破産債権の取得が、事務管理(民法697条)・不当利得(民法703条)や相続といった法定の原因に基づく場合は、相殺は禁止されません。これは、相殺権者による相殺適状の作出が、意図的ではないことを考慮したものです。
②実質的危機時期を知る前に生じた原因
破産債権者の破産者に対する債務負担が、実質的危機時期を知った時より前に生じた原因に基づく場合、破産債権者の債務負担が実質的危機時期以降であったとしても、相殺は禁止されません。
債務負担の原因が実質的危機時期を知る前に生じたものであれば、破産債権全額と対当額で相殺できるという合理的期待を認めることができるからです。
実務上、問題になるものとして、以下のものを挙げることができます。
振込指定・代理受領
金融機関・融資先・融資先の債務者が融資先名義の口座に振込送金することを合意し、金融機関の同意なしに三者間の合意を撤回できないという振込指定の合意がある場合、相殺禁止の対象にならないと解されています。代理受領も同様に解されています。
取立委任契約
金融機関が取引先との間で、取引先が貸付金返還債務を履行しないとき、金融機関が占有する取引先の手形の取立又は処分を行い、取得金を債務の弁済に充当することができるという取引約定を締結した、金融機関が取引先の支払停止を知る前に取引先から手形の取立を委任され裏書交付を受け、支払停止を知った後、手形を取り立てた場合、相殺禁止の対象ではないと解されています。
当座勘定取引契約
金融機関と破産者との間で、実質的危機時期前に当座勘定取引契約を締結し、実質的危機時期に振込入金があって、金融機関が債務を負担した場合、相殺は禁止されます。