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投資信託と破産手続における相殺禁止


投資信託に関して、相殺禁止の対象になるか?を判断した最高裁判決を紹介します。

最高裁平成26年6月5日判決

 投資信託の受益者権購入者が破産した場合、危機時期以降に投資信託を解約した際に、金融機関に入金される解約金の返還債務を受働債権とする相殺の可否が実務上、問題になっています。

 なお、この判決は、破産手続ではなく、民事再生の事案です。

事案の概要

 本件受益権に係る投資信託は、委託者である投資信託委託会社と受託者である信託会社との間で締結された信託契約に基づき設定されたものである。上記投資信託委託会社は被上告銀行との間で本件受益権の募集販売委託契約を締結し、被上告銀行は同契約に基づき本件受益権の販売等の業務を行っていた。

 上告人は、被上告銀行との間で、投資信託受益権の管理等を委託する旨の契約を締結した上で、平成12年1月から平成19年3月にかけて、被上告銀行から本件受益権を順次購入した。

 本件管理委託契約並びに本件受益権に係る前記信託契約及び募集販売委託契約によれば、上告人が本件受益権について解約を申し込む場合は、次の手順によることとされていた。

解約の手順

①上告人は、被上告銀行に対し、本件受益権に係る前記信託契約の解約の実行の請求をする。

②被上告銀行は、投資信託委託会社に対し、解約実行請求があった旨を通知する。

③投資信託委託会社は、前記信託契約の一部を解約し、信託会社が、被上告銀行に対し、解約金を振り込む。

④被上告銀行は、上告人に対し、上記解約金を被上告銀行の営業所等において支払う。

 被上告銀行は、平成19年1月以降、本件受益権を、社債、株式等の振替に関する法律121条の2第1項に規定する振替投資信託受益権として、口座管理機関である被上告銀行が備える振替口座簿に開設した上告人の口座に記録する方法で管理していた。本件管理委託契約において、上告人は、本件受益権について、原則として自由に他の振替先口座(被上告銀行に開設されたもののほか、他の口座管理機関に開設されたものを含む。)への振替をすることができるものとされていた。

  被上告銀行は、平成20年11月までに、上告人に対する保証債務履行請求権を取得した。その残高は、平成21年3月31日時点で5,954万2,964円であった。

 上告人は、平成20年12月29日、支払を停止した。被上告銀行は、同日、その事実を知った。被上告銀行は、平成21年3月23日、上記保証債務履行請求権を保全するため、本件受益権につき、債権者代位権に基づいて、上告人が被上告銀行に対して行うものとされている解約実行請求を上告人に代わって行い、投資信託委託会社に対し、解約実行請求があった旨の通知をした。

 上記通知により、本件受益権に係る信託契約の一部が解約され、平成21年3月26日、信託会社から被上告銀行に対し、解約金として717万3,909円が振り込まれた。これにより、被上告銀行は、本件管理委託契約に基づき、上告人に対し、本件解約金の支払債務を負担した。

 被上告銀行は、平成21年3月31日、上告人に対し、上記保証債務履行請求権を自働債権とし、本件債務に係る債権を受働債権とし、これらを対当額で相殺する旨の意思表示をした。上告人は、平成21年4月28日、再生手続開始の申立てをし、同年5月12日、再生手続開始の決定を受けた。

最高裁の判断

 最高裁は、相殺は認められないと判断しました。

 民事再生法は、再生債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨が没却されることのないよう、93条1項3号本文において再生債権者において支払の停止があったことを知って再生債務者に対して債務を負担した場合にこれを受働債権とする相殺を禁止する一方、同条2項2号において上記債務の負担が「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合には、相殺の担保的機能に対する再生債権者の期待は合理的なものであって、これを保護することとしても、上記再生手続の趣旨に反するものではないことから、相殺を禁止しないこととしているものと解される。

  前記事実関係によれば、本件債務は、上告人の支払の停止の前に、上告人が被上告銀行から本件受益権を購入し、本件管理委託契約に基づきその管理を被上告銀行に委託したことにより、被上告銀行が解約金の交付を受けることを条件として上告人に対して負担した債務であると解されるが、①少なくとも解約実行請求がされるまでは、上告人が有していたのは投資信託委託会社に対する本件受益権であって、これに対しては全ての再生債権者が等しく上告人の責任財産としての期待を有しているといえる。上告人は、本件受益権につき解約実行請求がされたことにより、被上告銀行に対する本件解約金の支払請求権を取得したものではあるが、同請求権は本件受益権と実質的には同等の価値を有するものとみることができる。その上、上記解約実行請求は被上告銀行が上告人の支払の停止を知った後にされたものであるから、被上告銀行において同請求権を受働債権とする相殺に対する期待があったとしても、それが合理的なものであるとはいい難い。

 また、②上告人は、本件管理委託契約に基づき被上告銀行が本件受益権を管理している間も、本件受益権につき、原則として自由に他の振替先口座への振替をすることができたのである。このような振替がされた場合には、被上告銀行が上告人に対して解約金の支払債務を負担することは生じ得ないのであるから、被上告銀行が上告人に対して本件債務を負担することが確実であったということもできない。

 さらに、前記事実関係によれば、③本件においては、被上告銀行が上告人に対して負担することとなる本件受益権に係る解約金の支払債務を受働債権とする相殺をするためには、他の債権者と同様に、債権者代位権に基づき、上告人に代位して本件受益権につき解約実行請求を行うほかなかったことがうかがわれる。

 被上告銀行が本件債務をもってする相殺の担保的機能に対して合理的な期待を有していたとはいえず、この相殺を許すことは再生債権についての債権者間の公平・平等な扱いを基本原則とする再生手続の趣旨に反するものというべきである。

 したがって、本件債務の負担は、民事再生法93条2項2号にいう「支払の停止があったことを再生債権者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合に当たるとはいえず、本件相殺は許されないと解するのが相当である。


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