破産手続開始決定後に、先取特権者が目的債権を差押えて物上代位権を行使できるか?を判断した最高裁判決を紹介します。
最高裁昭和59年2月2日判決
破産手続開始決定後に、先取特権者が物上代位権(民法304条)を行使できるか?が争われました。
事案の概要
上告人は、昭和51年5月31日、破産会社に対し工作機械3台を代金1億3,300万円で売り渡した。破産会社は、同年6月10日、A社に対し本件工作機械を代金1億4,350万円で転売した。
東京地方裁判所は、昭和52年10月3日午後3時破産会社に対し破産宣告決定をし、被上告人をその破産管財人に選任した。
上告人は、上記転売に基づく代金債権のうち665万円について、債務者を被上告人、第三債務者をA社とする債権差押・転付命令を得、同命令は、昭和54年4月11日被上告人及びA社に送達された。A社は、同年8月8日東京法務局に対し本件差押・転付命令に係る665万円を債権者不確知を理由として供託した。
原審の判断
原審は、破産手続開始決定後は、先取特権者は物上代位権を行使できないと判断しました。
先取特権者は、物上代位権の対象となる債権が他から差押を受けたり、又は他に譲渡若しくは転付される前にこれを差し押えない限り、差押債権者等の第三者に対し物上代位に基づく優先権を対抗することができないものと解すべきであるとしたうえ、破産宣告は、破産者の財産につき破産財団を成立させ、財産に対する破産者の管理処分権を剥奪し、これを第三者たる破産財団の代表機関の破産管財人に帰属させるものであるから、物上代位の対象となる債権が他から差し押えられたり、又は他に譲渡若しくは転付された場合と同様に、これが民法304条1項但書にいう「払渡」に該当するものと解すべきであるとし、破産会社の破産宣告後にされた本件差押・転付命令は無効である。
最高裁の判断
最高裁は、破産手続開始決定後に、先取特権者が、物上代位権を行使することができると判断しました。
民法304条1項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには金銭その他の払渡又は引渡前に差押をしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする差押によつて、第三債務者が金銭その他の目的物を債務者に払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対象である債権の特定性が保持され、これにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面第三者が不測の損害を被ることを防止しようとすることにあるから、第三債務者による弁済又は債務者による債権の第三者への譲渡の場合とは異なり、単に一般債権者が債務者に対する債務名義をもって目的債権につき差押命令を取得したにとどまる場合には、これによりもはや先取特権者が物上代位権を行使することを妨げられるとすべき理由はないというべきである。
そして、債務者が破産宣告決定を受けた場合においても、その効果の実質的内容は、破産者の所有財産に対する管理処分権能が剥奪されて破産管財人に帰属せしめられるとともに、破産債権者による個別的な権利行使を禁止されることになるというにとどまり、これにより破産者の財産の所有権が破産財団又は破産管財人に譲渡されたことになるものではなく、これを一般債権者による差押の場合と区別すべき積極的理由はない。
したがって、先取特権者は、債務者が破産宣告決定を受けた後においても、物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。